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Chapter-18
麗秀は、工藤という同級生が父親である九能の秘密を知ってから、学校に何日も来ていないことを説明した。
前に聞いた一緒に歩いていた男のことか、と沁慰は思う。
そして説明を聞き終わった沁慰は、右手を頭に当てて大きく息を吐く。
「まずいわね。それにしたってなんでそんなことを……」
頭を抱えながら呟くようにいう沁慰。
そんな叔母の姿を見た麗秀は、また泣きそうな顔をして身を震わせた。
あくまで可能性の話だが、もうすでに工藤は捕まって、どこかに閉じ込められているかもしれない……。
沁慰は言いづらそうに、そう話した。
そんなことは麗秀も考えていた。
父親の九能は、都内でナンバーワンの情報屋と呼ばれている。
麗秀が、工藤と一緒にいたこともすぐに分かるくらい情報が早い。
それに九能は、自分がマフィアであることを疑われるような証拠はすべて消してきた男だ。
たかが高校生とはいえ、そのことを知った人間をそのままにするわけがない。
不安がらせる気はないが、今頃工藤は何か組織的理由で九能のことを調べていたと思われ、尋問されている可能性があるという沁慰。
「叔母さん……どうしよう……」
麗秀のまた表情が崩れ出す。
沁慰が落ち着かせようとすると、スマートフォンが鳴り出した。
沁慰は、画面を見てから少し待ってと手でジェスチャーをする。
それから、「あなたはリビングに行ってなさい。大丈夫よ、すぐに行くから」と、麗秀を浴室から出した。
廊下に出た麗秀は、キッチン向かい、そこにある冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してコップに注いで飲む。
それからリビングにあるソファに腰を下ろして、穿いている黒いスカートの端を握りながら身を縮める。
……私のせいだ。
私がお父さんにちゃんと話してれば、こんなことに……。
その時、玄関のチャイムが鳴った。
麗秀は、七分袖の白いシャツの上に、いつも着ている灰色の薄手パーカーを羽織る。
そして、何の確認もしないまま玄関の扉を開けた。
このマンションはオートロックなので、部屋に直接チャイムが鳴るのは、父親の九能以外にいないと思ったからだ。
「おつかれっス。お嬢、上がっていいっスか? 九能さんに忘れ物を取って来るように頼まれたんで」
そこにはラオンがいた。
麗秀が頷くと、ラオンは礼儀正しく一礼し、中へ入った。
「いや~鍵は持ってるんスけど、もしお嬢が帰って来てたら勝手入ったらまずいかなって思いまして」
笑顔で言うラオン。
そして九能の部屋へと入って行く。
麗秀もそれに続いた。
ラオンは、頼まれた物を見つけると、それをポケットに入れた。
それはUSBメモリーのように見えたが、麗秀にとってそんな物はどうでもよかった。
「ねぇ、ラオン」
「なんですか、お嬢?」
「こないだ私といた男の子のこと……何か知ってる?」
切羽詰まった顔をしていう麗秀。
「知らないっスよ」
ラオンはそう言ったが、麗秀にはそれが嘘だとわかった。
何故ならラオンは、嘘をつくと目を逸らす癖がある。
子供頃からそうだったので、麗秀はすぐに気がついた。
「嘘でしょ、私……わかるよ」
「なに言ってんっスか。ホントに知らないっスよ」
「嘘よ。それならなんであなたと会った次の日から、工藤くんが学校に来なくなったの?」
咄嗟に出た言葉だったが、言われたラオンは動揺を隠せないようだった。
麗秀が詰め寄る。
顔を歪めたラオンは、声のトーンを落として返す。
「あんな奴、お嬢が気にすることないっスよ。全然釣り合ってねぇし……」
その返事は、工藤がどうなったかを知っているのと同じだと、麗秀は思った。
ラオンの手を取って、工藤のことを訊く麗秀。
必死に、力任せに手を引っ張る。
「勘弁してください。俺、急いでるんで……」
ラオンは、その手を振り払って、外へ出て行ってしまう。
やっぱり工藤くんはお父さんに……。
麗秀はそう思いながら、その場で両膝をついた。
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