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Chapter-19
電話が終わった沁慰が廊下に出ると、膝をついている麗秀に気がつき、慌てて近寄った。
「ねぇ、音がしたけど、誰か来たの?」
麗秀の顔を覗き込む沁慰。
その顔は、また涙で崩れていた。
「私が悪いんだ。全部私が……」
泣きながら呟く麗秀は、その言葉を繰り返している。
沁慰がいくら肩を揺すっても、反応がなかった。
「ちょっと麗秀、しっかりしなさい」
沁慰は、無理やり麗秀を立たせて力強く言った。
「叔母さん……私のせいで工藤くんが死んじゃう。私のせい……私のせいだ」
ようやく、沁慰に気がついた麗秀。
だが、まだ泣きながら自分を責め続けていた。
「私が甘ったれだった。こんなことになるわけないって、甘く見てた……」
沁慰は、掴んでいた手を離して、突然乱暴に突き放す。
「お、叔母さん……?」
麗秀は、驚きながら沁慰を見る。
その泣きながら震えている様子は、捨てられた子犬や子猫のようだ。
「そうね。甘ったれね」
麗秀を見つめながらいう沁慰。
その表情は次第に優しさを帯びていく。
「でもね。あなたほど他人に気を使える女の子を私は知らないわ。だから、そんな風に自分を責めるのはもうやめなさい。麗秀……誰もあなたのそういうところを見ていなくても、私は知ってる」
沁慰はそういうと麗秀を抱きしめた。
沁慰の体温を感じる麗秀。
その暖かさで、麗秀の体の震えが止まる。
「今は甘ったれでも、あなたはきっと素敵な女になるわ。だってこんなに優しんいだから。麗秀は私の自慢の姪よ」
「……叔母さん」
麗秀の顔に笑顔が戻る。
「私もあなたくらい気が使えれば、子供がいたかもね……」
――その頃。
ラオンは、九能がいる豊島区の廃ビルに来ていた。
この場所は、JR池袋駅東口から徒歩10分。
外観は、昭和に流行ったタイル貼りのデザインで、もちろん今は誰も住んでいない。
出入り口にはシャッターが閉まっていて、元々はマンションか事務所だったのか店舗だったのか、よくわからないビルだ。
「九能さん、言われたもの取ってきました」
廃ビルの中に入ったラオンは、言われた部屋に入る前に、扉の前で声をあげた。
入っていい、と言われ、部屋の扉を開け、中に入る。
部屋の内装は、コンクリートの打ちっ放しの壁と床と天井。
蛍光灯が清潔な光を放っている。
「おかえりなさい、ラオンくん」
ヘラヘラとラオンに声をかける九能。
その九能の横には、イスに座っている工藤がいた。
椅子の肘掛けと脚ごと工藤の手足が、黒いゴムで絞められている。
腹や胸にもベルトを巻かれ、完全に拘束されていた。
さらに椅子の四本の脚の下は、金具とボルトで床に固定されていて、それ自体が動かないようになっていた。
そして制服姿の工藤には、頭から紙袋が被らされている。
ラオンから見て、工藤は怯えているのかはよくわからない。
もしかしたら気を失っているかもしれないと、ラオンは思った。
「さてと、この子はどうしましょうかね。調べたところ誰かの命令で動いているわけでもないし。なんでこの子が私のことを嗅ぎまわっていたのか全然わからない」
「あ、あの、九能さん」
ラオンが声を震わせた。
そして続ける。
「こいつを勘弁してやってください!!」
そう言ったラオンは、コンクリートの床に頭をつけて土下座をした。
九能は、そんなラオンを見て微笑みながら訊ねる。
「いやいや、どうしたんですかラオンくん? この子が私の秘密を知っているって、君が教えてくれたんじゃないですか」
九能の言葉を聞いて、ラオンの体は震えていた。
そして頭を下げながら返す。
「こいつに何かあると、お嬢……麗秀のお嬢が悲しむんです」
声だけではなく、体まで震わせていうラオン。
そんなラオンに九能は近づいていった。
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