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Chapter-4
――夜になった。
麗秀は、池袋駅近くにある高級ホテルに入っていった。
すれ違う人たちが皆、振り返る。
……うわぁ、めっちゃ見られてる。
そりゃそうだよ。
学生がこんなとこ来ないもん……。
制服姿の彼女は、ホテル内で目立った。
早足に地図を見て場所を確認すると、エレベーターに乗る。
そして目的の部屋の前で、スマートフォンを取り出して操作。
扉が開き、中から女性が出てきた。
「来てくれたのね、私の麗秀!!!」
女性は顔を合わすなり、抱きつき、頬を麗秀の顔に擦りつける。
ウェーブのかかった長い黒髪に、細い足がさらに細く見える黒ストッキング。
スカートタイプの青色のダブルスーツ姿。
タレた目つきが挑発的で、長いまつげと湿っぽい唇をしたセクシーな女性――宇慶沁慰
色っぽくスタイルが良いせいか、年齢がわかりづらい。
「まぁ、沁慰叔母さんの誘いだから……」
宇慶沁慰は、麗秀の父親の従妹に当たる中国人と韓国人のハーフである。
麗秀の父親は韓国人。
母親である日本人の女性と結婚し、そして麗秀が生まれる。
麗秀の父親は、妻の戸籍に入り、そのまま日本人に帰化した。
そう――。
麗秀は日本人と韓国人のハーフだった。
学校で、このことを知っている人間はいない。
「さあ中に入って着替えましょう。あなたのためにドレスを用意してあるの」
「ドレスなんて着ないよ。私、制服でいい」
「どうして? せっかくパーティーなんだからおめかししましょうよ」
麗秀がここ来た理由は、沁慰が亡くなった叔父の会社を引き継ぐことになり、そのパーティーに参加するためだった。
嫌々だったが、母親が亡くなってからは、父親よりも沁慰に相談することが多く、誘いを無下にできない。
それと他人といると苦痛を感じる麗秀が、唯一、沁慰の前だけでは自然体でいられるいうのもあった。
「え~いいよ。それより何時くらいに終わるの?」
「そうね。遅くなるかもしれないけど。麗秀が私に話があるなら、早く切り上げて付き合ってあげる」
「いや別に無理はしないでも……。でも……話したいかも……」
麗秀が小声でそう言うと、沁慰は微笑んだ。
そして二人はパーティー会場へ向かう。
麗秀は、沁慰が用意した真っ赤なドレスを着て、腰まで届く長い髪をアップに纏めていた。
「やっぱ派手だよ、このドレス……」
「あら、そんなことないわよ。とっても似合ってる」
そんなことは訊いてない……。
麗秀はそう思いながら渋々、沁慰の後についていった。
「あなたは文句なしに美人よ。女の私から見てもね」
麗秀をエスコートしながら、パーティー会場へ入って行く。
このホテルのパーティー会場は、多くの企業が利用するダンスホール。
豪華なシャンデリアが飾られ、会場内の多くが男性であり、全員スーツ姿でシャンパンを飲んでいた。
麗秀は、その男性たちを見て、皆中国人だと気がつく。
男性たちは、沁慰の姿を見て全員が頭を下げ始めた。
「姉さん、いやボス。改めてよろしくお願いします」と声をそろえて言う。
……ひゃあ~! 私、来てよかったのかな!!
内心で戸惑う麗秀。
沁慰の影に隠れていると、急に声をかけられた。
「おいお前、誰だ? なんで沁慰の姉御といんだよ」
麗秀が恐る恐る振り向くと、そこには女性がいた。
金髪のポニーテールに、黒と黄色のレザージャケット、黒のレザーパンツは体のラインがわかるほどタイトなものを着ている。
まだ幼い顔立ちをしているが、その不機嫌そうな表情のせいか、年齢がわかりづらい。
麗秀からは、この女性は20代前半くらいに見えた。
……この人って白人さん?
どうしてパーティーなのにこんな格好を?
ドレスコードで止められなかったのかな?
麗秀がブロンドの女性を黙って見ていると――。
「ここは子供の来るとこじゃねぇぞ」
そう言った彼女の開いた口から見える八重歯と、虚ろな緑色の瞳に、会場にあった照明の光が反射した。
「いや、そ、その……あ、あの……」
「あん? なんだよ。はっきり言わねぇとわかんねぇぞ」
ブロンドの女性に睨まれた麗秀は、笑顔だった。
だが、怯えてしまって何も言えなくなっていた。
「なに笑ってんだよ、気持ちわりぃな」
ブロンドの女性はそう言いながら、震えて笑う麗秀に詰め寄っていった。
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