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Chapter-6
アウレリアはもう帰ると言ったので、沁慰は外まで見送ることにした。
当然、会場に知っている人間のいない麗秀もそれについていった。
外に出ると、黒服のホテルマンがタクシーを止めたり、客の車のキーを預かって、発進しようとしている。
多くの車が止まっている中、一台のバイクがあった。
ドゥカティ999S、イエローカラー。
そのバイクの横に、小さな少女がペロペロキャンディを舐めながら立っていた。
「おう、わりぃ。待たせたな」
アウレリアがその少女に声をかけた。
その少女はジャングルブーツを履き、深緑の上下ミリタリールック姿で、真っ白な髪を振りながら頷く。
頭を動かしたせいで、後ろに束ねた三つ編みが、まるで白蛇のように揺れた。
……この子、日本人?
いや中国人?
どちらにして東アジア系かな。
そんなことより髪白っ!!
白髪って初めて見た。
でも髪、全然痛んでない。
艶があって綺麗だなぁ。
麗秀は、少女の真っ白な髪に見惚れていた。
白髪の少女は、アウレリアの傍に寄って、着ているレザージャケットの端を引っ張りながら何やらボソボソと声をかけていた。
「なんだよ? キャンディ買ってやったろう?」
少女の声が小さいので、聞こえてくるのはアウレリアの声だけだ。
「レリアったらお友達ができたの? ちょっと紹介してよ」
……沁慰叔母さんがお母さんみたいなことを言っている。
私にも言いそうなセリフだ……。
麗秀は、嬉しそうな沁慰を見てそう思った。
「あん? 別に友達じゃねぇし」
そう言うと、白髪の少女がアウレリアの着ているレザージャケットの端を強く引っ張り、バランスを崩して転びそうになる。
「何すんだよ!!」
「うぅ……」
怒鳴るアウレリアに、睨み返す白髪の少女。
「レリアにそんなことするなんて、本当に仲がいいのね」
それを見て、沁慰は笑った。
そしてそれに合わせて麗秀も笑う。
「笑ってんじゃねぇよ、ったく。……こいつは、まぁ相棒みぇなもんだ」
「可愛い相棒さんね。あなたにそんな子ができるなんて、景・雪もきっと安心してるわ」
「だといいな……」
景・雪という名を沁慰が出すと、アウレリアは目を瞑って顔を逸らした。
沁慰は笑みを浮かべながら屈み、背の低い白髪の少女の目線まで自分の目線を下げた。
そして優しく声をかける。
「こんばんは。あたしは沁慰っていうの。とっても可愛いあなたのお名前は?」
「私の名前は……」
「わわわっ!!!」
白髪の少女が言いかけると、アウレリアが慌ててそれを遮った。
不思議そうにする沁慰と白髪の少女。
沁慰が訊く。
「どうしたのレリア?」
「い、いや……ほら! 先に姉御の連れに名乗ってもらおうと思ってよ」
急に自己紹介を振られた麗秀は、疑問を感じながらも笑顔で名乗る。
「え~と、初めまして九能麗秀です」
「よし。このちびっこはスーってんだ。甘いものが大好きな糖尿予備軍」
何故か、アウレリアが代わりに自己紹介をした。
麗秀がニコッと笑みを浮かべてスーを見ると――。
「くのう……」
スーは麗秀の苗字を聞いて、何か含みのある言い方で呟いた。
アウレリアはバイクに置いてあった、黄色と白二つのフルフェイスヘルメットを取って、白い方をスーに渡す。
それから持っていた黄色い方を被り、ドゥカティ999Sのエンジンをかけた。
「じゃあ、もう行くわ。おいスー、早く乗れ」
そう言われたスーは、アウレリアの後ろに飛び乗る。
まるで忍者のように音もなく、軽々とタンデムシートに着地して跨った。
「くのう……くのう……」
そしてボソボソと何やら言っていた。
「レリア、今度ゴハンでも食べに行きましょう。もちろんスーちゃんも一緒にね」
笑顔で言う沁慰。
その横で、麗秀も合わせて笑顔になる。
「はい、美味しいゴハンを楽しみにしてます」
沁慰の言葉にスーは、ペコリと礼儀正しく頭を下げた。
「そのうちな」
アウレリアはポツリと言うと、エンジン音を唸らせて、そのまま走り去っていった。
……なんかすごいふたりだったな。
麗秀がそう思っていると、沁慰が声をかける。
「その時はあなたもね、麗秀」
……いや、あんな普通じゃない人たちと関わり合いたくないよ。
私の世界に、これ以上普通じゃないものを増やしたくない……。
普通……普通でいい……。
内心そう思いながら麗秀は、黙ったまま笑顔で返す。
それは、沁慰の友人のことを悪く言えなかったからだった。
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