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Chapter-7
次の日の放課後――。
今日は麗秀が望む、何事もない普通の一日だった。
教室にはまだ何人か生徒が残っていて、笑いながら話をしている。
その中に、麗秀や亜美と杏もいた。
三人はしばらく話していると、いつものように亜美が二人をショッピングモールに誘う。
麗秀は、昨日の夜に行ったパーティーで、知らない人間と関わったせいか酷く疲れていた。
だが、それでも笑顔で承諾する。
……本当は帰りたいけど。
内心そう思う麗秀。
だが彼女は、何か理由がないと他人の誘いを断れなかった。
「よし! 早く行こう!! ナゲット食いたい!!」
「亜美はいつもそれだよね」
「だって超ウマくね? でもナゲットって何の肉なんだろ?」
「亜美……名前見てわからないの……?」
二人のやり取りを聞きながら、机に入った教科書を鞄に入れる麗秀。
いつも通り笑顔でいると――。
「九能、ちょっといいか?」
突然、男子が声をかけてきた。
工藤波介――。
麗秀たちのクラスメート。
細身だが逆三角形の体格をしたスポーツマン体型で、男子にしては髪が長く、ろくに手入れもしていなさそうなのに清涼感がある男だ。
「うん? どうしたの工藤くん?」
笑顔で返す麗秀。
誰だろうと、声をかけられた微笑む。
それは麗秀の条件反射だった。
「話したいことがある。外のグラウンドに来てくれ」
「えっ!?」
「じゃあ、待ってるから」
工藤はそう言うと、教室を出て行った。
戸惑う麗秀。
「告白キターッ!!!」
「グラウンドかぁ。こういうのって体育館裏とか校舎裏じゃないんだね」
亜美と杏は、工藤の言葉が聞こえていたようで、それぞれ感想を言った。
教室にはまだ人が残っていたが、亜美と杏以外に、今の話は聞こえていなさそうだ。
亜美がニヤニヤしながら、麗秀に話を振る。
「で、どうすんの麗秀? あたしは工藤イイと思うけど」
「ただ呼ばれただけだし、まだそうと決まったわけじゃ……」
麗秀を無視して、亜美は続ける。
「文武両道で背も高いし、イケメンといっていい顔してるし。まぁ性格は大人しくて地味で、下の名前は残念だけど、優良物件じゃん」
「私も、工藤くんいいと思う」
杏が亜美に続く。
「だって今まで告白してきた人って、みんな手紙か、携帯の番号を人に訊いたりとか、LINEで勝手にグループとかだったんでしょう。そう考えると直接伝えようとしている工藤くんは小細工なしでカッコイイと思う」
「い、いや、だからまだわからないよ……」
麗秀は二人の意見に、ただ笑顔で困った。
「さあ! いってしまえ!! そして今日からあんたもリア充の仲間入りだ!!! キーッ!! 悔しいぞ麗秀ッ!!!」
亜美がハンカチを取り出し、それを噛んで大袈裟に叫んだ。
「あれは気にしないで、早く行ってあげなよ」
杏が亜美のことをぞんざいに扱い、麗秀に優しく言った。
……こんな時は、友達について来てもらえると助かるんだけどな。
そういう考えがよぎったが、そんなことを言える麗秀ではなかった。
「よ~し! がんばってしまえ麗秀ッ!!!」
「麗秀ちゃんファイトだよ」
麗秀に檄を飛ばす二人。
亜美は片手を高く上げて振り回し、杏は両手を前に突き出し、力一杯握っている。
……なんでこうなるの。
これからファーストフード食べて、一日が終わるはずだったのに……。
何を頑張ればいいのかわからないまま、麗秀はグラウンドに向かっていった。
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