Chapter-3

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Chapter-3

朝のホームルームから授業が始まった。 いつも通り。 何も変わらない教室の風景。 亜美や他のクラスメイトは「毎日つまらない」というが、麗秀(れいしゅう)はこの退屈な日常が嫌いではなかった。 この平穏な暮らしこそ、麗秀が望むものだったからだ。 ただ麗秀にとって、誰かと関わることだけが苦痛なのだ。 「帰りにメシ食ってこーぜ」 亜美が杏と麗秀に声をかけた。 麗秀は微笑みながら、それを承諾(しょうだく)する。 放課後にショッピングモールでお喋りをするために、ファーストフード店にいく。 その行為に意味などなく、ただその日にあったことや、くだらないことを話題にお互い笑いあう。 ……これが普通。 みんなと同じ普通の生活……。 周りには同じような高校生が多く、麗秀はそれを見て安心する。 「でさー、あたしが言ってやったんだよ。年上の彼氏なんてクソ野郎だって」 「なんで年上が悪いの? 落ち着いた大人の男性(ひと)って憧れちゃうけど」 亜美の言葉に、杏が不思議そうに訊いた。 「はぁ~これだから杏は」 大きくため息を吐いてから、亜美は続けた。 「だってその男26だよ? その歳でJKに手を出すやつが落ち着いた大人の男なわけないじゃん。クソだよゴミだよ」 「言われてみればそうかも……」 小さい声で(つぶや)くように言う杏。 だが、勝ち(ほこ)った顔をしている亜美に言葉を返す。 「で、でも、何か事情があるのかもしれないよ」 「事情ってなによ?」 「そ、それは当事者にしかわからないことだよ、きっと……」 「かぁ~、そんなこと言ったらなんでもアリじゃん。亜美、そういうの屁理屈(へりくつ)って言うんだぞ。なぁ麗秀(レイ)」 急に麗秀に話を振る亜美。 麗秀は「そうかも」と、笑顔で言った。 「麗秀(レイ)ちゃん酷いよぉ。亜美の味方するなんて」 「ごめんごめん。そんなつもりじゃ」 二人の会話を聞きながら、微笑む麗秀。 いつも大人しい杏だが、亜美に対してだけは自分の意見を言う。 麗秀は、そんな二人のやりとりを見て、やはりこういうのが友達なのだと思っていた。 「あっ、もうこんな時間」 不意に、麗秀は腕時計を見て眉を(ひそ)め――。 「ごめん。もう行かなくちゃ」 そう言って(かばん)を手に立ち上がった。 「なんだよ麗秀(レイ)、もう行くのかよ」 唇を尖らせた亜美に、「夕飯の買い出しや洗濯ものやらあるから」そう麗秀は申し訳なさそうに答えた。 「そっか。大変だよな麗秀(レイ)は」 亜美がため息交じり言うと、杏が麗秀に声をかける。 「でも麗秀(レイ)ちゃんすごいよね。家のことで忙しいのに成績も学年でいつも五位以内だし。尊敬しちゃう」 「ははは、そうかな」 笑う麗秀。 本気になれば学年でトップを取れる学力がありながら、麗秀はテストで手を抜いていた。 それは他人に(うと)まれることを恐れてのことだった。 目立たないように――。 かといってバカにもされないように――。 ただ平穏に普通に――。 小学校の頃から成績をコントロールしていた彼女だったが、運動神経はあまりよくなかったので、人並みになれるように体を鍛えたり、出来る生徒をよく観察してそれと同じことをしたりと努力していた。 おかげで中学校に入る頃には、体育の成績を中の上くらいまで上げることができた。 他にも美術の授業で絵を描くことや、音楽の授業での楽器の演奏や歌うこと、家庭科での裁縫(さいほう)や料理など、気がつけば人並み以上にできるようになっていた。 麗秀は普通を手に入れるためなら、どんなことでも頑張れる子だった。 「あたしたちも行っこか?」 亜美が杏にそう言うと、二人も鞄を持って立ち上がった。 「それじゃ」 麗秀は、その場で二人から離れていく。 「また明日ね麗秀(レイ)ちゃん」 「明日な。で杏、ちょっとスリーコインズ寄っていい」 「いいよぉ」 背中でその会話を聞きながら、歩く麗秀。 ショッピングモール出て、バスに乗り込む。 ……はぁ、今日も疲れた。 えっと場所はたしか……。 スマートフォンを鞄から出し、画面を操作する麗秀。 それから駐車場にいる猫のように退屈そうな表情で、バス車内で揺られながら池袋へと向かった。
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