青い夜・村尾タツキ

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 そんな我ながら女々しい話を我ながら女々しい語り口で美晴に聞かせると、彼女はけらけら笑いながら鷲掴みにしたポテトチップスを俺の口にねじ込んできた。握りつぶされたポテチの破片が深緑のカーペットの上にぱらぱら散らばるが、家主である彼女は気にするそぶりも見せない。  「急性のセンチメンタルだね。天罰だよ、ヤリチンの。」  今でこそこうやって、美晴の部屋で二人して昼間からポテトチップスなど食べるような仲ではあるが、2年前までは美晴もセフレその1くらいのポジションにいた。それが何がどうなったのか、気が付いたらセックスもせずだらだら話したりテレビを見たり飯を食ったりする関係になって一年以上が経つ。もう記憶の中の美晴の肌の温度も声の質も、随分薄れてしまってろくに思い出せない。  「やっぱりそう思う?」  「タツキがやってるセフレの何人かも、そういうセンチメンタルに陥ってるんだよ。反省しな。」  「ほんとに? 美晴も?」  「バカじゃないの。」  「だよなー。」  くそヤリチン、とライトに一言俺を罵ってから、美晴はポテチの空き袋をワイルドに片手でゴミ箱に押し込む。耳のあたりで二つに縛った長い髪が大きく揺れた。いい年してツインテールの女にまともなのはいない。そんなセリフをどっかで聞いたことがあるけれど、俺はそもそも美晴の年齢を知らない。  「でも、好きなんだよな。」  多分無視されるだろうと思って独り言のトーンで言ってみると、ふた袋目のポテチを開けながら美晴が大きく息をついた。  「意外だよね。タツキががちになるのがああいう地味なおにーさんなのって。」  「地味……まぁ、地味だよな。」  「地味だよ。地方公務員ーってかんじ。」  確かに清水さんの職業は地方公務員だ。そのことを美晴に話した覚えはないので、彼女の慧眼に俺はこっそり感心する。  「俺は?」  「ホストかバーテン。」  「……似合わないか。」  「似合うもなにも向こうは奥さんいるんでしょ。」  「でも、やらせてくれた。」  「気まぐれだよ。仕事でよっぽどやなことでもあったんじゃないの。奥さんにはそーゆーの愚痴れないタイプで、気分転換にタツキとやってみたとかね。」  俺は清水さんのひっそりと静かな横顔を思い浮かべ、断固として首を振った。  「そういう人じゃないよ。」  すると美晴はつまらなそうに口をとがらせ、一気に俺の話から興味をなくす。  「じゃー知らない。」  「みはる、」  「うっさいなぁ。」  「俺、結局美晴しかいないからさ。」  「身から出た錆だよ。」  「……分かってる。」
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