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五月十〇日 金曜日 曇り時々雨
本日も特に異常無し。
お弁当のおかずは筑前煮。
意外と美味しかった。
さら
いつも通りの淡泊な文面に、私は頬が緩んでいくのを感じた。
三行だけど、いや、だからこそさらが平穏な人生を送っているのだということが伝わってきて嬉しくなる。
本日は五月十一日の土曜日。今日からまた私の六日間が始まる。
明日は由佳里と買い物に行く予定だから、宿題は今日中に済まさないといけない。そう思って、勉強机で数学の問題集に向き合ったけれど、いまいち勉強に身が入らない。
どうしても、さらのことばかりを考えてしまう。
自我、というものは生まれてから少しずつ形成されていくものなのだと思う。
だけど私の場合、それはある日突然芽生えた。というよりも、私という人間が自我をもって誕生した、というほうが正確なのかもしれない。
人生における夢とか、生きる目的とか、そういったものも本来なら後天的に獲得されていくものなのだろう。だけど私の場合は違って、私には始めから学校に行けず、部屋に引き籠っていたさらが普通の生活を送れるように手助けする、という目的というか指命というか、そういったものを生まれ持っていた。
それを嫌だとかやりたくないだとかは全く思わなかった。
というよりも、私という存在はさらがいなければ生まれなかったのだから、さらのために何かをするのは当然のことなのだから。
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