1:26歳

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 ナナは自由になる右手でテレビのリモコンを操作して、チャンネルを次々と変えながら「テレビも飽きたな」なんてつぶやいている。  ちなみにナナが来てから私はベッドの横に布団を敷いて寝ている。まだ怪我が治らないナナと二人で寝るには、シングルベッドは狭すぎる。それに床に敷いた布団よりもベッドの方がナナは動きやすい。だからこれは当然の処置だ。しかし家主が疲れて帰ってきたとき、悠々と寝転がっているナナの姿を見ると、どうしても苛立ってしまう。  ひと言文句でも言ってやろうかと思ったとき、ナナが「セイラ、おかえり。何突っ立ってるんだ?」と私を見上げ言った。 「ただいま……」 「ん? ああ、そうだ。今日ちょっとキッチン使ったぞ。もうちょっと出来るかと思ったんだけどマイチだった。それで良かったら食べていいぞ」  ナナに言われて私はキッチンを覗く。ご飯が炊けている。冷蔵庫の中には不細工な玉子焼きと乱暴に盛り付けられたサラダが入っていた。それを見て思わず頬が緩んでしまった。  不細工で質素な料理をテーブルに並べる。 「いただきます」  料理はお世辞にもおいしいとは言えなかったが、ナナが普段の何倍もの時間をかけて一所懸命に作ったのだと思うとうれしくなる。  同時にモヤモヤとした不安が胸の奥から湧きだしてきた。  ナナはもうかなり動けるようになっている。もう私の家に住まなくても生活ができるかもしれない。それでもまだナナがこの家を出て行かないのは、ナナが借りていたアパートを解約してしまったからだ。入院が長期化することは分かっていたので、入院してしばらくしたときナナに頼まれて部屋を解約している。部屋の中にあった少ない荷物は、ナナが十七歳まで暮らしていた施設に一時保管してもらった。それらの荷物も今はこの部屋に運び入れている。  つまりひとりで生活ができるようになったとしても、ナナは私の家以外に住む場所はない。  それでもナナにできることがひとつずつ増えていくと、それがこの家を出て行くための準備をしているように感じてしまうのだ。ナナにとって体が回復していくのは喜ばしいことだと分かっているのに、素直によろこぶことができない自分が嫌だった。  そんなことを考えてしまうのは上司や同級生という関係以上に、私がナナのことを好きだからだ。できればこれからもずっとナナと一緒にいたいと思っている。けれどナナがどう思っているのか、確信が持てずにいた。
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