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ナナが作ってくれた夕食を食べ終えて食器を片付けると、私は再びベッドルームを覗いた。
ナナは相変わらずベッドの上で大の字にになってテレビを見ている。私の顔を見るとナナは少し考えるような素振りを見せた。そして、「ちょっと体を起こすの手伝ってくれ」という。
「もう一人でも起きられるでしょう?」
「まあ、そう言わずに頼むよ」
ナナに言われてため息を付きつつも私はナナを介助する。こうしてナナを甘やかしてしまうからいけないのだろう。もしかしたらナナは、私のことを便利な召使いくらいに思っているのかもしれない。
こんなに悶々とするのならばナナを家に呼ばない方が良かった。
生活が不便であればヘルパーさんを雇うなどの手段もあっただろう。それを選択肢から排除したのは私の欲のためだ。ナナの方から私と一緒に住みたいと言われたわけではない。
ナナは私のことを好きではないのかもしれない。私の想いを知って私を利用しているだけなのかもしれない。そう思うと無性に腹が立って、悲しくて、思わずナナの体を乱暴に扱ってしまった。
「イタタタタタタタタ」
ナナは絶叫する。
「ご、ゴメン、大丈夫?」
「イタ……」
ナナは顔を歪めて痛みを堪えている。
「どうしよう、すごく痛む?」
「ん、ちょっと、鎮痛剤……」
「わかった、鎮痛剤ってどこにあったっけ?」
「そこ……」
「どこ?」
「だからそこだって」
そう言うとナナは右手で私の左胸を鷲掴みにして、私が自分の胸に注意を向けた途端、絶妙なソフトタッチに切り替える。
ゾクゾクゾクッと背筋を電流が走る。
「あー、セイラのオッパイを触ると痛みが和らぐなぁ。いい鎮痛剤があってヨカッタ、ヨカッタ」
ナナは棒読みの台詞を言いながら私の胸を揉み続ける。私は力いっぱいナナの頭を叩いた。
「イタッ」
今度は同情なんてしない。痛がっていればいい。
これが恋人に対する愛情を込めた行為なら、私だってやぶさかでない。けれどナナは私のことをからかうためにやっているのだ。だから私はどうしていいのか分からなくなってしまう。
私はナナのことが好きだ。その肌に触れたいし触れてもらいたい。けれどナナは中途半端に私を焚きつけるくせに、体が痛いと言ってすぐに放棄する。私だけその気にさせられて宙ぶらりんになった気持ちをどうしろというのだろうか。
「我慢できなかったら、一人エッチしてもいいよ。見ていてあげるから」
ナナは私の心情を見透かしたように片方の口角を上げて言う。本当にこの女はムカつく。
「バカじゃないの! そんなことしない。本当にムカつく。一体何なのよ!」
私は力いっぱい怒鳴った。すると次の瞬間、ナナがやさしい表情を浮かべた。
「大きい声出して少しすっきりした? 会社で嫌なことでもあった? 仕事から帰ってから、ずっと眉間にシワよってたよ。それで、何か面倒臭いこと悶々と考えてたんだろ?」
すぐに私のことを見透かしてしまうナナが嫌いだ。
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