3:高校一年<16歳> 接近

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3:高校一年<16歳> 接近

 高校生活も半年以上が過ぎ、朝晩はすっかり冷え込むようになっていた。油断をしたつもりはないのだけれど、その日は朝から体調の悪さを感じていた。  失態だ。  皆勤賞を狙っているわけではないが、できるだけ学校を休みたくない。休んだ日に授業で重要な内容をやっていたら、それを取り戻すためにいつも以上の労力がかかるだろう。  それにクラスメートにノートのコピーをもらうなどしたら、借りを作るのことになる。貸しを作るの分にはいいのだ。けれど借りを作ると、弱みを握られた気分になって居心地が悪い。  借りを返そうにもその対価がはっきりしない。「気にしなくていいよ」と言われたとしても、私にはそれが本心なのかわからない。だから余計に心労を増やすことになる。  何より学校を休むこと自体に罪悪感があった。  だが幸いなことに熱はそれほど高くなさそうだ。数値で確認したくなかったので測らなかったが、感覚的には問題なく学校に行けそうな気がした。  それに今日は金曜日だ。今週の土曜は学校に出る用事もない。今日一日がんばれば、土日にゆっくりと体を休められる。  私はいつもより少し厚着をして家を出た。  普段よりも歩くスピードが遅く、一本遅い電車になってしまったが、時間には余裕があるので問題ない。問題だったのはその電車の混み具合だった。  いつもの電車も通勤通学でかなり混んでいると思っていたのだが、それが私の認識違いであることを痛感した。一本違うだけでこれほどの違いがあると知れたのはいい勉強になった。次からは気を付けよう。  だか今日の体調ではそんな呑気なことも言っていられない。    人の多さで淀んだ空気。  こもった熱気。  常に押しつぶされる圧迫感。  電車の揺れ。  それらが否応なく私の体力をガリガリと奪っていく。厚着をしていたこともマイナスに働いたのかもしれない。  私はひどいめまいと吐き気に襲われ耐えきれなくなった。仕方なく途中下車をして、体力が回復するまで待つことにした。
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