1:26歳

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1:26歳

 私のベッドに我が物顔で寝転がっている女がいる。  その名を塩原ナナという。  ナナは高校の同級生であり休職中の部下でもある。そんなナナがなぜ我が家のベッドにいるかといえば私が招いたからだ。  ナナは会社からの帰り道、奇跡的な確率でマンホールに落下。そしてこれまた奇跡的な確率で一命をとりとめた。  こう言ってしまうととてもお気楽に聞こえてしまうが、それほど気楽な状況ではなかった。医師は落ちたときに咄嗟に何かに捕まって衝撃を和らげたとか、深さが比較的浅かったとか、落ち方が良かったからか致命的な傷は負わなかったとか言っていた。  さらにナナが落ちたのは人通りの少ない道のマンホールの中だ。かなり出血もあったようなので、あと少し発見が遅れたら本当に命が危なかったかもしれない。  さて、そんな奇跡の生還を果たしたナナを我が家に招いたのは、退院しても一人では暮らせないだろうと思ったからだ。  どんな落ち方をしたのか分からないが、大きな怪我は左半身に集中しており、右手、右足は自由に動かせる。肋骨は骨折していたが背骨に大きな損傷はなかった。回復も順調で予想よりも早く退院することができた。それでも傷が完治したわけではない。  ナナの強い希望で松葉杖を使っていたが、退院時に医師からは車いすを勧められていた。そんな体で一人暮らしの家に帰っても生活に困難を極めるだろう。それにナナには家族がおらず、天涯孤独の身の上だ。世話を頼める人もいない。それが分かっていたから私は我が家で暮らすことを提案した。
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