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元々私は、●●村っていう小さな村に住んでたのよね。名前は……まあ聞いたことはないわよね。今、このクラスには三十人もお友達がいるけれど、私の通っていた学校は全校生徒合わせてもこんな人数なんかいなかったのよ。だから、小学校一年生から六年生まで、みーんな同じクラスで勉強してたわけ。
先生だって、校長先生と教頭先生を除いたら三人しかいなくてね。その三人の先生が、代わりばんこで八人しかいない生徒に授業を教えてくれていたの。
私は、その八人の一人だったわけ。
みんな一生懸命授業を教えてくれたし、一年生から六年生までをいっぺんに教えるのって大変だったんだと思うんだけど、絶対手を抜くようなことはしなくてね。私は三人の先生が大好きだったわ。お友達同士で喧嘩した時は、絶対両方の意見を聞いて、仲直りできるお手伝いもしてくれた。
田舎だったから、山で迷子になるとか藪にはまって抜けられなくなるなんてこともあったんだけど、先生達は事件が起きるたび積極的に子供達を助けに来てくれてね。
ああ、私もああいう先生になりたいなあ、って思って。学校の先生を目指そうと思ったっていうわけ。
その、八人の生徒の中にね、あの子はいたの。
謙三君。私より一つ年上で、でも私よりチビでね。もう文字通りやんちゃ坊主だったわけよ。壁に落書きをしてあるとか、自転車ですっ転んだアホがいるとか、立ち入り禁止の山に入って帰って来られなくなるとか――そういうおバカなことをやるのは決まってあの人だったわね。そのたびに先生に大目玉くらうんだけど、全然懲りてなくて。
で、私は反面真面目な優等生として通ってたから、そんなあの子を“馬鹿だなー”って思いながら見てたわけ。向こうもそんな私が面白くなかったんでしょうね。いつも、何かにつけて私をからかって、喧嘩をふっかけてきたっていうね。
『やーい!本しか友達がいないジミ雪子ー!スカートめくられても反撃できない臆病者ー!悔しかったら追いかけて来いよー!』
『なんですってえ!?』
まあそんなかんじよ。馬鹿でしょ?結果殴り合いの喧嘩になって、その時ばかりは私も一緒になって先生に叱られて――本当に散々な目に遭ったものよ。
今から思うと、あの子は私と友達になりたかっただけだと思うんだけどね。
というのも、八人生徒がいるといっても、年齢は結構偏ってたの。私が四年生で、あの子は五年生。あとの六人は二年生と一年生っていう偏りぶり。当然、遊ぶにしては話も合わない。今から思うと、それでも下級生とレベルを合わせたくて、妙に幼稚なことを繰り返してたんじゃ?なんて疑惑もあるくらいよ。
なんにせよ、一番年の近い私と仲良くなりたかったんでしょうね。
本当に、どうして男の子っていうのは、仲良くなりたい女の子に素直になれないのかしら。意地悪したって、相手の機嫌を悪くしちゃうだけなのにねえ。……はい、そこ、目逸らさないの。昴流君ってば、心当たりありすぎるんでしょ。樹里亜ちゃんに、あんまり意地悪ばっかりしちゃだめよ?
あの子は、お父さんがいなかったの。雨の日にね、事故に巻き込まれて死んでしまったらしくて。だから寂しかったっていうのもきっとあるんじゃないかしら。雨は大嫌いだって言っていたわ。実は私も雨が好きじゃなかった。その点だけ、気があっていたような気がするわね。
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