あの人の為の紅じゃない

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 不意打ちで訪れた実家の玄関先で、真っ先に私を出迎えてくれたのは、(あか)いハイビスカスだった。紺色の陶製の大鉢に植えられたそれは、昨年よりも一回りも二回りも大きく育った枝に濃い緑の葉を広げ、大輪の紅い花を三つ咲かせている。これから咲くだろう蕾もあちらこちらに控えている。その紅い色が、いい歳をして子供じみた行動をしている私を責めている気がして、少し胸が痛い。  母の為に選んだ(あか)だった。母の日のプレゼントにと、花好きの母に贈ったもの。鉢植えは“病が根付く”という言葉から病気見舞いには禁忌だということは勿論知っていた。でもこれは“母の日のプレゼント”だから。母の命が少しでも長く、この世界に根付いてくれたら、そんな思いもあった。  何か元気の出る花を、そう思って店先の花たちを見ていたら、その紅い色が眼に飛び込んで来て、私の心を掴まえた。青空に映えそうな紅いハイビスカス。きっと南国の雰囲気が、病に苦しむ母に明るい光を届けてくれるに違いない、そう思えた。  紅いハイビスカスの花は、母を笑顔にしてくれた。そして、それが最後の母の日のプレゼントとなった。   
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