世界を視た

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カコン。 耳鳴りのしそうな静寂に、やけに大きく響いた軽い音。 風船が弾けるように、夢から覚めた。 夜中の3時。夜が終わり、朝が始まる時間。 ――夜更かしはだめよ。 そんな優しく諭す声を思い出した。 薄く淡く明るい窓の外。ベッドの中からめいっぱい腕を伸ばし、カーテンの端を指先で掴んで少しだけその布の先を覗いた。 世界の終わりか、または始まりか、そんな少し異様で独特な空気に誘われるように、少女はベッドから抜け出した。踏みしめたフローリングは冷たく、足の裏から氷のような冷たさが伝わる。それさえも今は、不思議な感覚を少女に与えていた。 窓を開けると、昼間とも夜とも異なる風が部屋に入り込み、肌を、髪を撫でる。 先程まで重かった瞼はすっかり開いたままで、丸い瞳を更に丸くしてじっと窓の外を眺めた。頭に響くように聞こえていた時を刻む音も、もう聞こえない。弾けた夢も、もう思い出せない。 空の色が変わる。 風が変わる。 匂いが変わる。 世界が変わる。 自分も変わる。 はっきりと、それが分かった。 昨日が終わる空気。今日が始まる空。 まだこの世で生き始めたばかりの少女にもたらしたのは、何事にも代え難い感動、衝撃、焦燥感、生命。 少女は。 ――生まれて初めて世界の呼吸を視た。
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