「こんにちは、赤ちゃん」への道のり

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「こんにちは、赤ちゃん」への道のり

 菅首相になり、大いに期待していることがある。  首相は不妊治療の助成制度を大幅に拡充するよう、指示している。  不妊治療を受けやすい職場環境を整えるための検討チームが初会合を開催したとのニュースがあった。  そして、本日の首相所信表明でも不妊治療のことに言及していた。  少子化に歯止めをかけるための抜本的な対策なのだろうが、意識改革が為されるのは非常に喜ばしいことだ。  ニュースを見た後だから、難しい言葉を使ってしまった。  何であかつきが「不妊治療」に注目?  まあ私は2人の子どもを授かり、そういう時期もとっくに過ぎているんだけどね。  でも今の幸せがあるのは「不妊治療」さまさまなわけだ。  私が若かりし頃は、男性社員が女性社員に体型や年齢のことでいじるのは、一種のコミュニケーションだと思われていた。  結婚したらしたで「子どもはいつ作るの?」だの「子どもがいない夫婦は一人前じゃない」とか「先祖を供養してないからだ」とか、さんざんなことを言われた。  あの頃は、そんなことを言っても何も咎められなかった。それは多数派の言葉だったからだよね。私のように言われて、泣き寝入りしている人がたくさんいたと思う。でも何でそんなこと言われなくちゃいけないの? と怒りを感じた人たちが声を上げた。それが大きな流れを起こし、今では社会的に「セクシャルハラスメント」や「マタニティハラスメント」として、認識されている。    確かにね、不妊治療は面倒くさいし、自分一人のことじゃないし、いつ成功するかわからない。年齢的にもう無理だとなればあきらめもつくんだけど、高齢の人でも妊娠した例を知ると、あと1回で成功するかもしれない。もう一段階上の治療(保険外の顕微授精など)を受けたら成功するかもしれない。そういう気持ちで治療を辞められない。技術の進歩は、希望も膨らませる。出費も膨らむ。  私の場合は、そんなに保険外の治療は多くなかった。それでも、何の問題もなく妊娠する人に比べれば、お金はかかってるもんね。  職場には治療をしていることは報告していた。定期的に通院する必要があったからね。理解してもらわないと、休んでばっかりだって思われるから。でも本当は、プレッシャーを跳ねのけたかったからだろうなあ。私は作らないんじゃない、ちゃんと欲しくて治療してるんだっていう、パフォーマンスだな。治療もさることながら、その世間の無神経な圧力に耐えるのが辛かった。    殊更に自分を悲劇のヒロインにしたいわけじゃない。  でも、あの頃の私と同じ心の痛みを感じている人がたくさんいると思う。私は小説でそれを題材に取り上げて、不妊の人たちの気持ちを代弁したいんだよね。  そもそも『不妊』て言葉が、よろしくない。マイノリティーでネガティブだ。  何かいいネーミングはないのかなあ。  『妊活』って言葉がけっこう市民権を得ている。そっちに移行してくれるといいんじゃないかな。  社会が改革されたら、それでいい。  私が不妊治療のことを小説で書く頃には「これっていつの話? 時代錯誤も甚だしいんだけど」と言われるくらいに、改革して欲しいんだな。
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