一の目:木下汐里①

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「ご利用ありがとうございました。次は終点、旭が丘~、旭が丘です。」 電車のアナウンスでふと我に返る。 もうすぐ、私の住む街に到着する。 アスパルテームの論文をリュックサックに片付け始める。 それは、もうすぐ降りるから片付けるのではなく、 私の住む旭が丘の風景を車窓から眺めたいからだ。 毎日同じ日々の連続で、色がなくて、 それでも、毎日旭が丘という街を出発して、旭が丘に帰ってくる。 どんなに朝早い時間でも、どんなに夜遅い時間でも、旭が丘は旭が丘。 それだけが、なんというか幸せなんだ。 暗くてよく見えないけれど、そこには確かに私が生まれ育った街、旭が丘が広がっていた。 手前には3年間通った中学校が見えるし、奥に広がる緑のそばには小学生の頃によく遊んだ森林公園の展望台も見える。 線路は街の丘の一番高いところに位置しているため、旭が丘全体を一望することができて気持ちがいい。
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