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7年後
化粧品メーカーの開発部で働く美和は今日の午後もまた不良品の対応に追われていた。
生産部門の人たちと何度打ち合わせを繰り返しても、不良品の発生原因が掴めない。
もっとも不良品といっても直ちに深刻な影響が出るわけではないが、さらなる品質劣化に繋がる可能性を考えると、早い段階で解決をしておきたい事案だった。
関係しそうな文献にも目を通し、過去のデータと照らし合わせても美和には発生の決定的な要因が見えてこないでいる。
デスクでパソコンとにらめっこをしている美和の横に人影を感じた。
「あの〜」
今年、入社したばかりの後輩が測定データらしきものを手にして申し訳なさそうに声を掛けてきた。
「測定どうだった?」
眉間をしかめながら美和は後輩の方に顔だけを向けた。
「あの〜」
「例の不良品を測定してくれていたんでしょ?」
「は、はい」
美和は芳しくない測定結果と、自分の表情が険しくなっていることを後輩の表情から読み取り、椅子を回転させて身体ごと後輩の方へ向けた。
「測定した結果も改善はされていないのですが、測定器自体もちょっと調子が悪くなったみたいで」
後輩が小声で言いながら測定データを美和に渡す。
美和は4年生の学生だった自分のことを思い出した。
博士課程の木下の居室に測定データの確認とアドバイスをもらうために何度も訪れた。
測定器の部品を壊してしまった時は今の後輩と同じように木下の前で小声になったこともある。
「そうか、測定データもうまくいってないか」
目の前の後輩に自分の姿を重ねている美和の表情からは、すでに険しさは消えている。
「測定器の調子がおかしくなるのはよくあることよ」
後輩はそんな美和の言葉を受けても申し訳なさそうにしている。
美和は腕の時計をチラッと見て、懐かしそうに微笑んだ。
そして大学で学んだことを今の仕事で活かそうと後輩に声を掛けた。
「おやつでも一緒に食べない?もうすぐ午後3時だからさ」
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