消えた『3時』

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消えた『3時』

 それはある日、突然姿を消した。音もなく、前兆もなく。誰も気づかない間に。 「なに? 『3時』が消えてるだって? 何寝ぼけたこと言ってんだ、このバカ!」  高藤(たかとう)は受話器を叩きつけるように置くと、部下からの電話を切った。 先方に迷惑をかけた分を帳消しにしてこいと言ったが、誰も『時間』を消してこいなんて言っていない。しかも、大事な商談が始まる約束の時間を。 「あいつ……もしかして遅刻しそうになって誤魔化してんじゃないだろうな」  苛立ちを隠せない高藤はダン! とデスクを叩くと、左腕のスーツの袖をめくる。 黒い生地の下から現れたのは、最近買ったばかりのロレックスのシルバーの輝き。 まるで自分の価値を表現しているようなその輝きに一瞬気をとられるも、文字盤を見た瞬間、高藤は慌てて自分の両目をゴシゴシと擦った。そして、力強く瞬きをするともう一度文字盤を見る。 「……どうなってんだ、これ?」  そこにはいつも通り何一つ変わりなく秒を刻んでいく針。 スムーズに文字盤の上を滑るその針は、今しがた『2』という数字を越えたかと思うと、空白の文字盤を通過していき、次はいきなり『4』の数字を指し示す。 そのありえない光景に、高藤は目を丸くした。
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