第一章 散る徒花

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「お人よしも大概にしなよ」 「あ、ありがとうございます・・・・・・」  お人好しはどっちなんだろうか。  封筒を机の右側に置き、みつ子はPC画面に向かった。 「見たぁ~? やっぱアイツらデキてんだよぉ」 「エ~? あのデブがタイプとか佐藤も趣味悪ぅ、デブ専?」 「デブと地味メガネでお似合いじゃん」  くすくすという小さな笑い声。  出入り口横の席で高野が、たった今出社した女子社員とおおっぴらな、ひそひそ話をしている。  机八台分離れているのに、両耳から入り込んだ針は頭と胸を刺してくる。 「お葬式デブ菊人形じゃんっ」  ぐさり。  みつ子の胸に高野の言葉が突き刺さる。  きゃらきゃら声は頭と胸を貫通したまま図々しく居座って不快な音を振動させる。    奥歯を噛んでPCファイルを開き、ガチャガチャとキーボードを叩く。    みつ子は機械的な作業音をひたすら耳に入れた。  昼休みになり、みつ子は自分の机で弁当を広げた。    中身は昨日作った、きんぴらごぼうと今朝焼いた卵焼きに梅干しを混ぜた白米だ。  箸で卵焼きを口に運び、もくもくと咀嚼する。  午前中は、ずっと歯を食い縛ったままだった。  せめてこの貴重な30分間は静かに過ごしたい。 「昨日Dパーク行って来たんだぁ~。どうぞぉ」  思わず、左奥の出入り口近くの島に首を向ける。  高野が土産の菓子を女子社員限定で配っていた。  みつ子とベテラン男性社員数人以外は、皆外食ランチで出払っているため、きゃらきゃら声が輪をかけて煩く感じる。 「きゃーありがとう‼」  女子社員が次々と個別包装された品を手に取っている様な音が耳に入る。  不快な雑音を掻き消そうと、みつ子は、きんぴらごぼうを奥歯で、ぼりぼり噛んだ。
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