第一章 散る徒花

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「あー・・・・・・」  エントランスの自動ドアを背にして見上げる。  げっそりした声はアスファルトの池に落ちて吸い込まれた。  暗く、何層にも蓋をされた空。  不気味な黒い雲は土砂降りを止める気は一切無いらしい。  書類を受け取っていると「降って来たけど、大丈夫?」と先方に言われ、あわてて出てきたけど、ここまでとは。 (早く戻らなきゃいけないのに)  降水確率が20%と予報した天気予報が恨めしい。  傘を持っていない時に限って、大体こうなるものだ。  みつ子はロビーのソファにちらりと目をやる。  自動ドアを隔てた空間はラグジュアリーな雰囲気に包まれている。  (ロッカーには着替えもあるからいいかな)  とてもじゃないけど自分は場違い過ぎて、その中に戻る気にはなれなかった。   雨がいつになったら止むのかも分からないし、歩いて来た距離であることも、みつ子から雨宿りの選択しを除外させる。  みつ子は鞄に入れているレジ袋を出した。  レジ袋でガードした書類入り鞄を頭に抱えて、みつ子は激しい雨の中に足を踏み込んだ。  案の定ものの数秒で全身ぐしょ濡れになった。  おまけに強い風も吹いて四方八方から雨が降懸り、巨大な霧吹きだ。  雹みたいな雨粒がスーツ越しに全身をビシビシ打ち、アスファルトに叩きつけられて水蒸気が立ち上る。  目にも雨粒が沁みた。 (やっぱり雨宿りしたほうが良かったかも)  傘を持って来ればよかった、雨が弱まるまでロビーで待つんだった。  捨てた選択肢のほうが正解だったと、惨めな自分に追い打ちをかけた。  本当に後悔は役に立たない。  瞬きをばちばち繰り返して、みつ子は豪雨の中、重たい足を引きずって進む。  パンプスの中も雨水で滑り、歩く度に、ずぼずぼと音を立てた。  荒れた天候だと知っている道も、知らない道を歩いている気分になった。
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