第一章 散る徒花

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(あ。信号)  視界の先に現れた滲んだ赤の光が現れ少しほっとする。  来た道と同じ所にある目印を確認し、自分の歩いている道がちゃんと合っているのだと安心できた。  中継地点の信号を渡れば会社はもう少しだ。  川状態の足元の悪さと向かい風で思うように進めず、ものすごく遠い場所に感じた。  待つ間も雨脚は激しくなるばかり。  下着までぐっしょり濡れてしまった。  会社に着いたらすぐに着替えないと風邪を引きそうだ。 『ダイエットのためにスーツ着たまま泳いだんですかぁ~?』  ふと、きゃらきゃらした声が雨音の中から脳内に響く。  みつ子は、ぐしょぐしょになったパンプスを見て溜息をついた。  直感とかは全然当たらないけど、こういう予想は嫌でも当たってしまう。  無防備で罵詈雑言にさらされまいとする一種の防衛本能だろう。  冷たくなっていく体とは逆に、目頭が熱を持った気がした。  パッと信号が青のライトに変わる。  沁みる両目を瞬かせて、雨粒といっしょに熱を流した。  焦る気持ちとは反対に、もたつく足を必死に動かして、みつ子は横断歩道を踏みしめる。  右から眩しい白い双眸が、自分目がけて突進してくるのにも気づかずに―――。
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