第二章 輪廻の種子・麗しの舞姫

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  ジャービル王は、もう一方の手をシュラの腹部に回し、臍を人差し指で弄る。 「アッん」 「相変わらず良いカラダをしているのぉ」 「ジャービルさまこそっ・・・・・・。あぁん‼そんなっ、駄目ですわ」  スカートのウエスト部分から侵入した太い指は若い芽を摘み上げ、蜜壺の口を塞いでかき混ぜた。  祖父と孫程違う年の差にも関わらず、シュラは淫楽に興じている。  他の男女も同じだ。  口づけなど、ただの挨拶とばかりに、伴侶とは別の相手と戯れている。 「ッカァアア‼この芳醇な香‼我が殿にも是非味あわせたい」  公賓のひとりが杯を見つめ呟くと、シェラカンドの大臣(ワジル)・ファティが透かさず手土産を差し出した。 「バール様。こちらをお持ちくださいませ。我が国で醸造した葡萄酒にございます。年代は今お召し上がりの品よりも幾分新しくはございますが、こちらも格別です」 「おおっ。これは忝い《かたじけな》。我が殿もさぞお喜びになりますわい」 「ああ大臣殿、私にも1本持たせてくれまいか?」 「ワシにもくれぬか」 「わたしにも」  口火を切ったように客人たちは我も我もと群がった。  ファティと共に召使たちが配って回る。 「いやぁ~。ヘサーム王はまっこと出来たお人よのう。予定とは違うが乾し果物も輸入しようかのう」 「これでは取引条件を呑まぬ訳には、いかんですなぁ」 「過分な持て成し、是非とも我が殿をお連れせねば」  懐柔した客人を尻目に、宴の主催者であるシェラカンド王・ヘサームは愛鳥の鷹を肩に乗せ、専用の寝椅子でひとり寛いでいた。  時折ファティや召使いたちが入れ替わり立ち替わり、ヘサームに何やら耳打ちをしている。 「はッ! たかだか酒と料理と手土産で言いなりになるとは」 「あいつ等には要人としての誇りが無いのか! あんな青二才に手玉に取られおって」  片手に貴族女を抱きながら、葡萄酒を煽る二人組。  この者たちも自国の王の命により今日初めてシェラカンドを訪れていた。 「貴様‼今一度申してみろ‼腰抜け目が‼」 「喉元さえ潤えば何でも要求を呑むキサマらこそ腰抜けではないか‼」  酒も手伝い、バールと二人組が立ち上がり佩刀(はいとう)に手を掛ける。  しかし、ヘサーム王は意にも介さない。 「御心を鎮めください。客人を持て成すのは王宮としてごく当たり前の事。勿 論主の思いが通じ、我が国との取引に応じて頂ければ尚更喜ばしい事です。お愉しみ頂ければ主も幸いでしょう」  ファティが興奮する三人を宥めるが、こんな事は日常茶飯事である。  彼にとっては朝起きて顔を洗うよりも容易かった。  バールと二人組は渋々元の席に腰を下ろす。 「お愉しみはこれからですよ」  ファティは二人組の耳元に囁いた。  酒と料理で傾かぬ要人がいるのも事実。  だが、ヘサーム王にはまだ奥の手があった。 「むっ⁉」 「なんだッ⁉」  不意に大広間が暗くなって行く。  葡萄酒を喉に流し込んでいた二人組は再び立ち上がった。  壁沿いに控えていた召使たちがひとつひとつ飾り燭台の灯りを消して行っている。  とうとう大広間の明かりは客席から離れた向かいの壁に残った数本の蝋燭、洋燈(ランプ)と、アーチ状の柱の間から差し込む月明かりのみとなった。  辺りは仄暗く、目を凝らさぬと客人たちの座るところから先は見えないほどだ。 「何をしようと言うんだ」 「暗がりに乗じて邪魔者を抹殺しようとでも言うのか? 笑止! その手には乗らんぞ‼」  二人組は敵意剥き出しで両度、佩刀に手を掛けたが、その期待を裏切るように横笛の音が仄暗い空間に響き渡る。  明かりと落としたからと言って、暗殺など仕掛ければ国同士の軋轢(あつれき)を生むだけだ。  この二人組が、短絡過ぎる思考になっていることも、ヘサームの掌で転がされ始めた証なのだろう。  暗闇の奥から 横笛(フルート)の音を皮切りに撥弦(ウード)、タンバリン、竪琴、銀笛(フラジオレット)の複数音が重なり情緒溢れる旋律を奏で始めた。
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