139人が本棚に入れています
本棚に追加
/225ページ
暗闇と旋律の中から幾つもの橙の灯りが列を成して現れる。
それは細い炬を手にした妖粧の女たちだった。
女たちは滑らかな手つきで燭台や洋灯に再び火を灯していく。
ぼうっと琥珀色の中に艶めかしい影が怪しく浮かび上がる。
空気を斬る音が一斉に鳴る。
オオッと客人たちから感嘆の声が沸いた。
一糸乱れぬ群舞。女たちの手から伸びる鎖、その先に付いた絹が琥珀色の光を反射して回転する。
「これはこれは実に美しい」
「舞も美しいが、ルンマーンは皆美形ぞろいですなぁ~」
既に懐柔された要人たちは更にヘサーム王の手中に掌握されてしまった。
「食欲の次は色香か、はッ‼」
ぐびりと葡萄酒を煽り、一緒に居た女の膝にどかりと頭を乗せる。
「三大欲も、ここまで来るとは見下げ果てたものだ」
ゴクリと女の口移しで肉料理を鵜呑みにした。
葡萄酒と極上の料理、踊り子たちの舞。
二人組の意地は崩れるのも最早時間の問題だった。
旋律が変化し、踊り子の群れがふたつに割れる。
奥から舞出でるひとりの踊り子。
夜空に輝く月の如き艶美を放っている。
両手の鎖を自在に操り、絹の炎を激しく回転させる。
先ほどまで妖粧の踊り子たちを物色していた男たちも、一瞬で虜になった。
琥珀色の中でしなやかに躍動する肉体、燃え盛る炎のように乱舞する絹。
時に荒々しく、時に揺らぎ―――。
絹の円舞に讃えられ、中心で踊り子は絹の炎を、妖艶な軀に纏わせ、悩ましい表情を見せる。
現世のモノとは思えない儚さと危うさを湛え、彼女そのものが悠久の時空に揺らいでいる様だった。
「宵の翠玉は、たまらんのぅ‼」
「! あれが、くだんの踊り子」
「・・・・・・なんという美しさか」
手元の女そっちのけで二人組は宵の翠玉に食いつく。
ヘサームはひとり静かに口端を上げていた。
最初のコメントを投稿しよう!