第二章 輪廻の種子・麗しの舞姫

5/32

139人が本棚に入れています
本棚に追加
/225ページ
 暗闇と旋律の中から幾つもの橙の灯りが列を成して現れる。  それは細い炬を手にした妖粧(ようしょう)の女たちだった。  女たちは滑らかな手つきで燭台や洋灯に再び火を灯していく。  ぼうっと琥珀色の中に艶めかしい影が怪しく浮かび上がる。  空気を斬る音が一斉に鳴る。  オオッと客人たちから感嘆の声が沸いた。  一糸乱れぬ群舞。女たちの手から伸びる鎖、その先に付いた(ベール)が琥珀色の光を反射して回転する。 「これはこれは実に美しい」 「舞も美しいが、ルンマーンは皆美形ぞろいですなぁ~」  既に懐柔された要人たちは更にヘサーム王の手中に掌握されてしまった。 「食欲の次は色香か、はッ‼」  ぐびりと葡萄酒を煽り、一緒に居た女の膝にどかりと頭を乗せる。 「三大欲も、ここまで来るとは見下げ果てたものだ」  ゴクリと女の口移しで肉料理を鵜呑みにした。  葡萄酒と極上の料理、踊り子たちの舞。  二人組の意地は崩れるのも最早時間の問題だった。  旋律が変化し、踊り子の群れがふたつに割れる。  奥から舞出でるひとりの踊り子。  夜空に輝く月の如き艶美を放っている。  両手の鎖を自在に操り、絹の炎を激しく回転させる。  先ほどまで妖粧の踊り子たちを物色していた男たちも、一瞬で虜になった。  琥珀色の中でしなやかに躍動する肉体、燃え盛る炎のように乱舞する絹。  時に荒々しく、時に揺らぎ―――。  絹の円舞に讃えられ、中心で踊り子は絹の炎を、妖艶な軀に纏わせ、悩ましい表情を見せる。  現世(うつしよ)のモノとは思えない儚さと危うさを湛え、彼女そのものが悠久の時空(とき)に揺らいでいる様だった。 「宵の翠玉(よいのすいぎょく)は、たまらんのぅ‼」 「! あれが、くだんの踊り子」 「・・・・・・なんという美しさか」  手元の女そっちのけで二人組は宵の翠玉に食いつく。  ヘサームはひとり静かに口端を上げていた。
/225ページ

最初のコメントを投稿しよう!

139人が本棚に入れています
本棚に追加