第二章 輪廻の種子・麗しの舞姫

6/32

139人が本棚に入れています
本棚に追加
/225ページ
『まこと美しい』 『ご覧になって?あの微軀(びく)』 『あれを見るだけでも、長く逗留する甲斐があるというものだ』 『卑猥だわ』 『抱いたら さぞ格別でしょうな』 『下品な舞ね』 『あの膨よかな乳房・・・‼吸いつきたいものだ』  音楽に混じる耳障りな言葉。 (早く終わって―――)  宵の翠玉は心の中で必死に願う。 (気持ち悪い)  ここにいる連中、ここの音、ここの空気、ここの匂い、すべてが気持ち悪かった。  男たちの欲望は汚泥のように、べっとりとへばりつく。  下卑た視線が踊り子を上から下まで舐め回す。  特に揺れる豊満な乳房と、鋭く動く腰は男共の淫欲を掻き立てた。  女たちの嫉妬は千の棘となり、汚泥の中から踊り子に胸気を与えた。  棘の生えた汚泥が踊り子の軀籠(むくろごめ)を汚し、突き刺していく。  皮膚から滲み出た滴が蒼と白の幾何学模様(アラベスク)の床へと落ちていく。  体をくねらせる群舞の踊り子たちが横目に入った。  男共の淫靡な視線に応え、本来の振付よりも卑猥さが誇張されている。 (真似したくない)  吐き気に苛まれながらも振り切って、ひとつひとつの動きに集中した。  客席で一定の律動を刻む肉塊の影が目に入る。  女が男に跨り、恍惚の表情を浮かべ、口を大きく動かしている。  女が仰け反り、開かれた口が更に大きく開く。  踊り子はカオを背けた。  しかし、何処に目を逸らしても交接している。 (最低)  老若男女が肉欲を貪る(けだもの)になっていた。
/225ページ

最初のコメントを投稿しよう!

139人が本棚に入れています
本棚に追加