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「んあ~、もぅ。ベッドに乗る前に、もぉっと確認してよぉ!」
こどもみたいな舌ったらずな声の主は、パタパタと背中の羽根を動かしながら宙を浮遊し、アイーダの目の前に移動した。
「いい加減さぁ、この陰気臭いカッコやめなよ。アイーダ」
「ムーニャ。無茶言わないで。わたしはこの世界に馴染むなんて到底無理よ」
ポンチョの端っこを引っ張るムーニャにアイーダは力なく反論した。
「へ~ぇ。今の君は、前とは比べ物にならないほど綺麗なのにさ」
ムーニャは鏡台の引き出しから手鏡を取り出し、アイーダの顔を映した。
透き通るような真珠の肌と、大きな翠玉の瞳。
ほんのり赤い頬に薔薇の唇。
ふわふわの白金の髪をした美女が、アイーダを見返している。
舞台用の煌びやかな飾りでさえ、その美しさを引き立ててる小道具でしかない。
だが、アイーダは顔を背けてしまった。
「・・・・・・まだ引きずってるの? 前のこと」
「だって、覚えているのに。なかったことになんてできないわよ」
「でもさぁ~贔屓目に見なくたって、君は超絶美人なんだよ。顔だけじゃなくてカラダだって。ここの客たちだって君に夢中じゃないかぁ」
「だから嫌なのよ。あんな気持ち悪い男たち。仕事じゃなかったら・・・・・・こんな格好なんて。前の姿のほうが、ずっとマシだったわ」
「そう喚いてもさぁ、今のこのカラダ以外、君の魂が還る器なんて無いんだよ」
引き出しに鏡を戻すと、ムーニャはアイーダの顔を覗き込んだ。
「君は、一度死んでるんだから」
ムーニャの無邪気な、まんまるな瞳が、自信なさげなアイーダを映している。
「死んだかどうかなんて、覚えてないわ」
——そう、覚えていない。
あの日、二早社に課長のお使いで書類を取りに行って、会社に戻ろうとしてどしゃぶりの雨の中歩いて帰って。
——その後どうしたんだっけ?
つい、実質一ヶ月前の記憶なのに、アイーダは遥か昔に感じる記憶を辿る。
レジ袋に包んだ鞄を頭に抱え、濡れ鼠になりながら、川と化した横断歩道を踏み締めていた。
キキイイイイイイイ―――‼ドン‼
けたたましい音と衝撃音に心と体が飛び散る。
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