第二章 輪廻の種子・麗しの舞姫

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「はッ‼」  目が開くと白い布みたいな天井があった。 「アイーダァ! やーッと目ェさましたァッ‼」  賑やかな声。  赤みがかった茶髪を頭の天辺でお団子にしている、派手な化粧をした女子が、こちらを覗き込んでいた。 「あいー、だ・・・・・・? わたしの名前は、鈴木みつ子ですけどぉお・・・・・・わぁっ‼」    体を起こそうとしたら、ガタンッという大きな揺れでアイーダは後ろに倒れてしまった。  ヒヒーンという鳴き声に、ここが馬車の中だと分かった。 「大丈夫? アイーダ・・・・・・。まだ夢の中にいるのかしら・・・・・・?」  今度は段カット状になった長い金髪をしたゴージャスな美女が自分を見下ろしている。 「わっ、ご、ごめんなさい‼」  後頭部に、ぽよん、と柔らかい感触がして、みつ子は、ばっと起き上がった。  倒れた拍子に、金髪美女の胸に頭が乗っかってしまっていたようである。  大きく開いた胸元から察するにDカップはありそうだ。 「うふふ・・・・・・。あなたの豊かな胸には敵わないけれど。怪我がなくてよかったわ・・・・・・」  みつ子の視線を感じてか、金髪美女が、にっこりと笑う。 「へ?」  ゆったりした口調で身に覚えのない指摘をされ、みつ子が自分の胸元に目をやると・・・・・・。 「なっ・・・・・・‼なにこれぇッ?」  そこにはIカップはありそうな巨乳が、くっついていた。 (え。ちょっと、どういうこと? 豊胸手術なんてした覚えないし‼そもそもそんなお金無いし‼)  最低限人間らしい生活をするだけの給料な得ているものの、零細企業のOLの月給なんてたかが知れている。  ローンでも組まない限り、美容整形なんて受けられるはずがなかった。  というより、そもそも豊胸手術を申し込む度胸がない。  「アイーダってば超イヤミィィィイイイイイ‼アタシなんか、つんつるてんなのにィィイイイイイイイ‼」    みつ子が驚きすぎて、ガッと胸を凝視して青褪めていると、金髪美女の横から、パッツン前髪をしたおかっぱ頭の童顔女子がブーイングする。  金髪美女を見た直後のせいで、おかっぱ女子が、より幼く感じた。 「あ、あのいったいここは・・・・・?」   「ハァァアッ⁉ナニ言ってんのよアイーダッ‼」    とまどう、みつ子に、賑やかなお団子頭女子が突っ込んできた。  「あの、わたしは鈴木っ・・・・・・」 「は? 魚好きだからって、もうッ‼アンタまだ寝ぼけてんのォッ?」  お団子頭をした女子が眉間の皺を濃くする。  みつ子は魚好きで、名字も魚の種類と発音は同じだ。  そのせいで小学生の頃は、からかわれたこともあった。 「仕方がないわジャスミン・・・・・・。私たち、シェラカンド国王に招かれて、国賓たちの前で踊るのよ。アイーダが白昼夢を見るのも無理ないわ」    金切り声を上げるお団子頭のジャスミンを、金髪美女が、なだめる。 (アイーダ? シェラカンド?)    次々現れる、聞いたことがない言葉。  ただ、ひとつ理解できたのは、これから、その“シェラカンド“という国に行くため、馬車が走っているということだ。  しかし、その他は分からないことばかりで、みつ子の頭の中は、ここまで耳にした単語が、バラバラになって飛び交っていた。    (だって、わたしは、さっき課長に言われて、取引先に書類を取りに行って、土砂降りの中、会社に戻ろうと歩いて)  みつ子は、できる限り、現時点で自分が覚えていることを思い返した。 (どうしたんだっけ――?)    分かるのはそこまでだった。  思い出そうとしても、真っ暗な深い海の底に落としたモノを手で拾おうとしているみたいだ。
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