序章

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 巨大な寝台に付けられた天蓋の紺青のカーテンは、この国の夜空を思わせた。    彼の匂いの付いた寝台に寝かせられる。    まるで繊細な金細工を扱うかのように。    シーツも青くて海にも思える。    首を軽く傾げて見渡す。    頭上に広がる一面の紺青(アル・ラズワルド)。    砂漠の夜空の下で寝転んでいるみたいだ。    しゅ、と布が擦れる音に目をやると、ヘサームがカーテンのタッセルを解いていた。    ひとつずつ、留められていたドレープが落ちていく。    四つ目のタッセルが解かれると、完全に夜空の世界に閉じ込められる。    青いシーツ上で柔らかな白金色の髪が波打つ。    薔薇の色香を放ちながら、翠色の薄絹に透ける艶やかな真珠の肌。    ヘサームは、それらを壊さぬように覆いかぶさり、口づけた。    青の幕越し、重なる影が映し出される。    細い腕が伸び、覆いかぶさる逞しい体躯の頭部を抱えた。    アイーダは心臓が喧しいくらいに高鳴った。    麝香(ムスク)の匂いに覆い包まれ、どきどきし過ぎて胸が苦しい。    胸元に枝垂れ落ちている烏羽玉色の髪にすら、感じてしまう。  「アイーダ・・・・・・」    熱い吐息を含む声に、どきんっと胸がひと鳴りする。    愛おしむ大きな掌が、やわらかな髪を撫でる。    それだけで目頭が熱くなってしまう。    涙が溢れ切ったしまう前に目を閉じる。    ちゅっと瞼に口づけが落とされた。 「あ、あの・・・・・・ヘサー・・・・・・ム」 「ん?」  たどたどしい声に、ヘサームは訝しがる。 「・・・・・・っ やさしく・・・・・・して ね」    恥じらいでいっぱいの、小さく零れる声。    瞬間ふたたび唇が重ねられた。 「ん・・・・・・、んんっ・・・・・・ちゅうっ ちゅっ」    薔薇の花弁の間から入り込んだ欲の舌は、願いを聞く気がないことを示している。 「保障はできんな・・・・・・。私以外の前で肌を晒したからな」  静かに、でも、確実に怒りを孕ませた声が、薄い皮膚同士が触れる距離で吹き込まれる。 「ぇ・・・・・・」    褐色の長い指の手が、頬、首筋、鎖骨、薄絹上で胸、腹を這い、太腿で止まり緩やかに撫で往復した。  ヘサームの怒りの理由に、アイーダは覚えがない。  だが、ヘサームの言葉を逡巡しているうちに、思い当たる節が浮かび、アイダは「あっ」という顔になった。   「思い出したか」 「んッいあッ‼あんぅっ‼」    裾のヒレを持ち上げ、内太ももを辿った長い指が下穿きを通り抜け、中指(ちゅうし)が蜜を溜めだした壺口を弄り、指金を嵌めた権力の指は、小さな突起を押し潰した。
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