第二章 輪廻の種子・麗しの舞姫

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「小童のぶんざいで、どこまでっ‼このワシを愚弄(ぐろう)するか―――ッッ‼」  怒り狂ったジャービル王が佩刀を抜いた。 (嘘―――ッッ!!)  まさかの事態にアイーダは背筋が凍りつく。  スローモーションのようにジャービル王がルトに斬りかかってくる―――!!  ルトの背後でアイーダは思わず目を瞑った。 「うわーあああああああ!!」    頓狂な叫び声が耳に入る。それは紛れもなくジャービル王のものだ。  アイーダは恐る恐る目を開けた。  今朝は、起きてから固まることばかりだったが、今、目の前で起きている事象が一番信じられないだろう。  なんと天井を突き抜けんばかりの巨大な魔神(ジン)が、ジャービル王の襟首を指先で摘み、自分の顔の高さまで持ち上げていたのだ。  ぎょろりとした青い目に褐色の肌、黒い巻き毛とカエサル髭みたいな口髭と顎髭をたくわえている。  羽根飾りをつけたターバンを巻き、ショート丈のベストを着た姿は、まさにランプの魔神(まじん)だ。  アラビアン・パンツを履いた脚は幽霊のように、膝から下が消えかかっている。 「ひいいいいいいいいいい、もうっ申し訳ございませんっ!!へっへいかには、ヒラにっっひらにご容赦をををををををををををを―――!!!」  余りの非現実的過ぎる状況に放心状態でいると、恐怖に泣き叫ぶジャービル王の声が耳を劈いた。  数分前までの威勢の良さはどこ吹く風。  魔神(ジン)の巨大な目玉に睨まれ、失禁までする始末だ。  すると、魔神はパッと指を放し霧となった。 「くうううううう‼」  ジャービル王は燃える石炭みたいな顔で、ぶるぶる震えながらパンツをたくし上げ、ガニ股で走り去っていった。 「だいじょうぶ? アイーダ」  嵐が過ぎ去り、アイーダが呆然としていると、ルトが焦りの残る顔を向けてきた。 「は・・・・・・はい。あの、今のって魔神、ですよね?」 「アイーダったらァ‼魔神も知らないのォッ? 魔神(ジン)なんか珍しくないでしょォッ‼」  ジャスミンが口を挟む。  アラビアン・ナイトな世界とは思っていたが、まさか魔神(まじん)までいるとは。  ジャスミンの口振りから、魔神(まじん)の存在は、一般的なようである。 「ふつうは、あんまり見ないけどね。シェラカンド王宮(ここ)は兵の他にも魔神(ジン)がうろついてるんだよ。全員ヘサーム王の言いなりで。しかも、あいつら別の姿や生き物にも変身するから」  ルトが頭を掻く。 「まっ・・・・・・まぁ、魔神も、いちいち人前に出てくるヤツばっかじゃないからねええ~。ここが特殊なんだよぅ」  ルトの言葉に続いてムーニャが声を発した。  アイーダの髪の毛の中から。  いつの間に潜り込んだのだろうか。  しかも、耳と尻尾が垂れ、ブルブルと震えている。 「ムーニャ?」 「べべっ‼べつになんともないよぅ~‼」  そう言いながら、ムーニャの声は裏返りまくっている。 「あと、ヘサーム王には最高位の魔神(マリッド)が憑いてるって噂で」  思案顔で話を続けるルトに、ムーニャが全身の毛を逆立てた。  まるで怖いボス猫に会ったみたいに興奮している。 「だいじょうぶ?」  アイーダは、髪の毛の中で丸く縮こまる黒猫に、そっと話しかける。
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