第二章 輪廻の種子・麗しの舞姫

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「前なんか国金を横領したヤツが魔神(ジン)に殺されたっていうしね。おっかない話だよ」 「そ、そうなんですか」  髪越しにムーニャを撫でながら、アイーダは、あわててルトの話に相槌を打った。 「ちょっとォ~。ふたりともワタシのこと忘れてな~いィ?」  じとーっとした目でジャスミンが割って入る。 「そもそもジャスミンさんが余計なこと言うからでしょうっ」 「アイーダが処女卒業するのに丁度イイかなァ~ッて思ッたのよッ! 折角のチャンスだったのにィ~ッ。ジャービル王は結構イイのよォッ」 「ジャスミン。そういうことはアイーダ自身が決めることなんだから。友達同士静かに見守って行こうよ」  見守られるのもどうかと思うが、強要されるよりは、大夫マシである。 「ふ~ぅん? じゃあルトは、アイーダが食べごろになるまで、待つワケッ?」 「ジャスミンッ!」  彼女のふたたびの爆弾発言にアイーダは声を上げた。  友人を庇っての発言の揚げ足を取られ、ルトも狼狽<>える。 「ぼくは、そんなつもりじゃっ」 「そうですよ。ルトさんは友人で」 「あァーもォー、アンタってばほんとお子ちゃま。あのねェッ‼ オトコもオンナもみィ~んな快楽にどっぷり浸かるようにデキてんの。いつまでもオトコを知らないで生きてくなんてゼッッタイに、有り得ないんだからねェッ! 花も動物も魚もぜェ~んぶッ、アソコとアソコが交ざんないで出来上がったモンなんかゼロなんだからねェッ!!」  ジャスミンに、ビシッと胸元に人差し指を突きつけられ、アイーダは背筋がビクっとなる。 「それに」  ジャスミンは急に声色と目線を変え、ルトを見やる。 「人畜無害なカオしてたってェ、ルトもオトコなんだからねェ~」  そう言われ、ルトは苦笑いするしかなかった。 「ねェッ‼もっと胸が出てる服ないわけェッ?」  ワンピースの襟元を引っ張りながら、食堂でジャスミンが吠える。 「練習着ですから、露出は少なくても問題はないと思います」   アイーダもジャスミンの隣に腰を下ろす。  ジャスミンが文句を言っている服は、アイーダの予備の練習着だ。  あの後、食堂へ向かう前に三人でアイーダの部屋に寄ってジャスミンに貸したものである。 『このままでいい』とジャスミンは言い張ったが、シーツ1枚で、うろうろするなんて見ているほうが恥ずかしい。  何より、数少ない楽しみである食事中に気持ち悪い匂いを嗅がせられることにアイーダは耐えられなかった。  食堂の入り口でルトと別れた時には、既に食事の用意が整っており、部屋中に、いい匂いが広がっていた。 「はぁああああっ、うんまぁああああっ‼」  酔っぱらった口調でサナが魚の煮込みを頬張りながら言う。 「サナ、お行儀悪いわよ・・・・・・。食事くらい静かになさい」  サナの隣に座るタラーイェは、上品な所作で羊肉を口に運んでいる。  床に敷かれた生成りの上には、陶器製の大鉢に盛られた料理が並ぶ。  魚や羊肉を用いた煮込み、天人花の実、西瓜、メロンの切り身。  一座の賄い《まかな》にしては、かなり豪華だ。  基本的に食事は床で摂るので、毎日ちょっとしたピクニック気分になる。 「へいへい。うっさいぬぁあ、タァラは~」 「タラーイェよ・・・・・・。略さないで」  子供っぽいサナと大人なタラーイェは正反対だが、ふたりはいつもいっしょに行動することが多い。  暴走する生徒を先生がたしなめている感じである。 「アイーダってばぁあ、そぉんな、いぃんきぃくっさぁいかぁっこうっ‼やぁめなさぁいってぇ‼」 「そうよ。折角豊かな胸なんだから、もっと見せた方がいいわ・・・・・・」  アイーダが魚を煮込みを食べていれば、サナとタラーイェが服装についてツッコミを入れて来た。 (これ、ふつうだと思うんだけど)  アイーダは七分袖のゆったりしたチュニックワンピースを自分で縫い、普段着にしていた。  派手でもなく、特段目立つものでもない。  ただ、大きすぎる胸のせいで、ほとんどの布が、そっちに持っていかれてはいるが。   じろじろ見られるのが嫌で、舞台後に羽織っていたポンチョを今も羽織っている。  このポンチョも暗幕を自分で作り替えた物である。
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