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女性は肌を露出するのが美徳とされ、市場にも露出度の高い服しか売られていない。
周りに座っている踊り子の服装は、全員舞台衣装に近いか、更に露出度の高い服を着ていた。
(よくあんな恰好でいられるなぁ)
毎日見ていると流石に目に慣れてはくる。
・・・・・・同じ格好はしたくないけれども。
砂漠気候で暑い事も起因しているようだが、逆に肌が悲鳴をあげてしまいそうである。
アイーダがポンチョを着ているのは、刺すような陽射しから肌を保護する意味もあった。
一見男尊女卑な因習に見えるが、微妙に異なる。
性に奔放なのは女性も同じで、男に従って体を差し出しているわけではないのだ。
そうでなければ、一座内でもセクハラ関係の話題で持ち切りになるだろう。
この世界でアイーダとして過ごすようになってから、そんな話は一度も聞いたことがない。
『あのへたくそ』『アレは見た目よりもイイとこ突いてくる』『あそこの貴族は、もう終わりだわ』
という話題なら枚挙にいとまがないけれども。
煌びやかな装飾品と艶やかな衣装を身に纏って《まと》、舞台からは男を物色できる。
そんな理由から踊り子は、一般女性にとって花形職業だった。
「こォんな男を悦ばすカラダしてんのにィッ‼死ぬまで処女でイル気ィッ?」
「きゃあぁッ‼」
アイーダが再度、魚に箸を伸ばしていると、いきなりジャスミンに胸を揉まれた。
「ほんとほんと。アンタなら、どんなオトコだって一度ヤッたら一生忘れられないカラダよ」
「おどぉって、首紐切れる巨乳ぅうううううっ‼」
「ちょっ、やぁッ‼」
今度は、調子っぱずれに歌うサナが、背後からアイーダの両胸を鷲掴みにしてきた。
シェラカンドに来て、七日目のこと。
アイーダが客の前で踊っている最中、上衣の首紐が胸の重みに耐えきれず、ぶつりと切れてしまったのだ。
それ以来アイーダの上衣は胸をしっかり包み込む面積の大きいもので、首紐も頑丈な特注品だった。
「もォ~ッ‼美乳は見せてナンボよォッ。処女だから、んな、うじうじしてんのヨォッ‼」
赤面しながらアイーダが、うつむいているとジャスミンが、ばしばしと背中を叩いてきた。
(処女は関係ないと思う)
「まぁ、処女喪失の瞬間が1番怖いんだよねぇ」
アイーダは、自分の膝の上で羊肉をめいっぱい頬張るムーニャを睨んだ。
『おお、こわっ‼』とムーニャは、そそくさと窓辺へ避難してしまった。
ムーニャを目で追うと、数人の踊り子たちの視線がこちらに向けられているのに気づいた。
彼女たちは顔を見合わせて何か話している。
この嫌な感覚は何度も経験している。
『デブ菊人形』
アイーダの頭の中で、きゃらきゃらした声が、寒気のする嫌な響きを立てる。
住む世界が変わっても、分かる。
(わたしだって、好きでこんな姿になったんじゃないのに)
鈴木みつ子の時と同じだって―――。
「いッつまでも禁断の詩みたいなことしてるとォッ、人生大損するわよッ‼女盛りをドブに捨てる気ィッ?」
ジャスミンがメロンを齧る。
「禁断の詩?」
性に奔放な世界だから、『禁断』という単語に淫猥なイメージしか出てこない。
そんな変な詩まであるとは。
アイーダは顔がアツくなり、脳内許容量が限界になる。
思考が停止するアイーダに、タラーイェの凛とした声が入ってきた。
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