第二章 輪廻の種子・麗しの舞姫

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 女性は肌を露出するのが美徳とされ、市場(しじょう)にも露出度の高い服しか売られていない。   周りに座っている踊り子の服装は、全員舞台衣装に近いか、更に露出度の高い服を着ていた。 (よくあんな恰好でいられるなぁ)  毎日見ていると流石に目に慣れてはくる。  ・・・・・・同じ格好はしたくないけれども。  砂漠気候で暑い事も起因しているようだが、逆に肌が悲鳴をあげてしまいそうである。  アイーダがポンチョを着ているのは、刺すような陽射しから肌を保護する意味もあった。  一見男尊女卑な因習に見えるが、微妙に異なる。  性に奔放なのは女性も同じで、男に従って体を差し出しているわけではないのだ。  そうでなければ、一座内でもセクハラ関係の話題で持ち切りになるだろう。  この世界でアイーダとして過ごすようになってから、そんな話は一度も聞いたことがない。  『あのへたくそ』『アレは見た目よりもイイとこ突いてくる』『あそこの貴族は、もう終わりだわ』  という話題なら枚挙にいとまがないけれども。  煌びやかな装飾品と艶やかな衣装を身に纏って《まと》、舞台からは男を物色できる。   そんな理由から踊り子は、一般女性にとって花形職業だった。 「こォんな男を悦ばすカラダしてんのにィッ‼死ぬまで処女でイル気ィッ?」 「きゃあぁッ‼」  アイーダが再度、魚に箸を伸ばしていると、いきなりジャスミンに胸を揉まれた。 「ほんとほんと。アンタなら、どんなオトコだって一度ヤッたら一生忘れられないカラダよ」 「おどぉって、首紐切れる巨乳ぅうううううっ‼」 「ちょっ、やぁッ‼」  今度は、調子っぱずれに歌うサナが、背後からアイーダの両胸を鷲掴みにしてきた。  シェラカンドに来て、七日目のこと。  アイーダが客の前で踊っている最中、上衣の首紐が胸の重みに耐えきれず、ぶつりと切れてしまったのだ。  それ以来アイーダの上衣は胸をしっかり包み込む面積の大きいもので、首紐も頑丈な特注品だった。 「もォ~ッ‼美乳は見せてナンボよォッ。処女だから、んな、うじうじしてんのヨォッ‼」  赤面しながらアイーダが、うつむいているとジャスミンが、ばしばしと背中を叩いてきた。 (処女は関係ないと思う) 「まぁ、処女喪失の瞬間が1番怖いんだよねぇ」  アイーダは、自分の膝の上で羊肉をめいっぱい頬張るムーニャを睨んだ。  『おお、こわっ‼』とムーニャは、そそくさと窓辺へ避難してしまった。  ムーニャを目で追うと、数人の踊り子たちの視線がこちらに向けられているのに気づいた。  彼女たちは顔を見合わせて何か話している。  この嫌な感覚は何度も経験している。 『デブ菊人形』    アイーダの頭の中で、きゃらきゃらした声が、寒気のする嫌な響きを立てる。  住む世界が変わっても、分かる。 (わたしだって、好きでこんな姿になったんじゃないのに)  鈴木みつ子()の時と同じだって―――。 「いッつまでも禁断の詩みたいなことしてるとォッ、人生大損するわよッ‼女盛りをドブに捨てる気ィッ?」  ジャスミンがメロンを齧る。 「禁断の詩?」  性に奔放な世界だから、『禁断』という単語に淫猥なイメージしか出てこない。  そんな変な詩まであるとは。  アイーダは顔がアツくなり、脳内許容量が限界になる。  思考が停止するアイーダに、タラーイェの凛とした声が入ってきた。
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