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『真にその果実を欲するのなら、その果実が手に落ちて来るまで木の下で待て。
決して他の実を捥ぎ取るな。
他の者が別の果実を貪ろうとも捨て置け。
垂涎しどんなに喉が渇き枯れようとも。
待つ間、それを強奪せしめる者が現れたなら己のすべてを賭して守り抜け
果実が手元に堕ちて来るまで―――』
(果物の詩なの?)
卑猥な内容を想像していたアイーダは拍子抜けする。
これの一体どこが禁断なのか。
「果実は女。樹の下で待つのは男。欲しい女がいるなら、よそ見しないでプラトニックな恋愛を貫けっていう真実の愛を歌った詩なんだよぅ」
知らぬ間にアイーダの膝へ戻ってきたムーニャが、今度は魚にがっついている。
「でも、それのどこが禁断なの?」
アイーダは声を潜めてムーニャにたずねた。
「SEXしまくるのが正義、のこの世界じゃ、性欲をないがしろにした詩の内容がアレルギー。ナンセンスなんだよぅ」
詩の内容に『そんなの、ありえないわ』と口々に言う仲間の言葉を流しながら、アイーダは黙々と食事を進める。
性欲云々は各個人の自由なので、プラトニックな関係を押しつける必要はない。
だったら性的なこととは無縁でいたいと願うのも選択肢のひとつだ。
「あーっねぇねぇ。もうサリム様と、もうヤッた?」
踊り子のひとりがメロンをつまみながら話を振る。
「ヤッた、ヤッた‼シメジなのに元ッ気よねェ~ッ‼ナニされてんだか、ワケわっかんないィッ‼」
ジャスミンはケラケラと答える。
食事中には相応しくない(この世界ではふつうだが・・・・・・)会話が飛び交い、アイーダは内容を耳と脳内に入れまいと、必死に咀嚼した。
すぐ横では行為中の様子が赤裸々に語られていく。
耳に入れまいと、ひたすら咀嚼回数を数えるが単調な動作のせいで余計に会話内容が頭に刻み込まれてしまう。
「・・・・・・みつ子。あちきの顔に食べ物ぶっかけないでよね」
ムーニャは真っ赤になったアイーダの顔を見上げながら、怪訝そうな顔をした。
咀嚼しまくった魚を飲み込もうとしても、喉がつっかえて嚥下ができない。
なんとか吐き出すまいと手で口をおさえる。
おいしいはずの料理は、会話内容のせいで全然味が分からなくなっていた。
「あれっ?でも、そういえばさぁ。サリム様ってもう帰ったんでしょ?」
「そうそう、取引の交渉に失敗して。元気なだけが取り柄のへったくそは、仕事もペケよね~‼」
「七日以内でケリ着ける~とか息巻いてたけどさっ。十四日過ぎても全然話が纏まんなくて、2日3日と滞在延長。なんだっけ?奥サンが、間男大勢連れ込んで、豪遊三昧。このまんまじゃ家がやばいってんで、とんぼ返り」
「ヘサーム王にあったら年寄のお偉いサンも形無しね」
「あと、ダール王とドハ王も。あの兄弟、がっつくだけ、がっついちゃって。そんなんだから国がヤバくなんのよぉ~」
「男は博打が好きだからね~昔っから!!シェラカンドに来るだけで超金かかるってゆーのにさー。ある程度妥協しろっての!」
「うまく行けば大金うはうは。ヘタすりゃ文無し!」
取引交渉の為シェラカンドには毎日入れ替わり立ち代わり、多くの『客』が出入りする。
踊り子たちは、閨でうっかり口を滑らせる男たちから、多くの情報を得ていた。
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