第二章 輪廻の種子・麗しの舞姫

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  サァァッと鷹揚(おうよう)な水面に冷やされた風が肌を掠める。  佇んで、その囁きにアイーダが心を預けていると、要らぬ音まで耳に運ばれてきた。  途切れ途切れの、男女の混ざり合う呻き声とパシャパシャと言う水音。  シェラカンドの宮殿内には、あちこちに噴水や水路が設けられている。  中でも、中心にある聖泉は巨大なプールである。  だから昼間も幾分か涼しく過ごせるのだが、今回ばかりは、そのありがたい装置が裏目に出た。 「ふぁ~あ、カービドも元気だねぇ」  満腹になり窓べりで、べちょーっと伸びながらムーニャは耳を動かす。  さすがは猫。  人間の耳には聞こえない音でも、よく聞こえるようだ。 「あぁ~あ、今度はシュラ王女とヤッテルんだねぇ」  アイーダは、ぱっと耳を塞ぎ下を向いた。  ごつごつした白い窓べりを必死で凝視する。  微かにしか聞こえないせいで、かえって耳が音を拾おうとしてしまっている。  ひそひそ話を一言一句聞き漏らさないようにしているみたいだった。  (ひと晩ジャスミンとして、奥さんに代わって、また別の女性とって信じらんないっ‼)  幸い、ここは三階で、聖泉のある宮殿からは離れていたが、皮肉なことに自分にとって不快なことは、しっかりと耳に入り込んでしまうものである。  朝食に続き、折角のひとときが台無しになった。 「アイーダ? どうしたの」  無花果を片手にルトがアイーダの隣に立つ。  淫らな男と女の交わり声を盗み聞きしている状態が恥ずかしくてアイーダは黙り込んだ。 「ああ、嫌だよね。ああいうの」 「えっ」  ルトは怪訝そうな声を出し、窓辺に背を向けて凭れ掛り(もたれかか)無花果を齧りだした。  意外な言葉にアイーダが顔を上げると、山育ちだから耳は、かなりいいほうなのだと彼は続ける。
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