第二章 輪廻の種子・麗しの舞姫

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「妻子持ちなのに他の女性と関係を持つなんて、僕には到底信じられないよ」 「ルトの故郷では、ちがうの?」 「ううん、同じだよ。僕の両親も情婦・情夫(愛人)が何人もいるし。でも僕は嫌なんだ、そういうの。おまえは頭がおかしいって、兄さんやナーゼルにもバカにされるんだけど、温かい家庭を築くのが昔からの夢でさ」  ルトの言葉にアイーダは、はっとさせられる。  もやもやとしていた心の曇りが風にさらわれ、太陽に照らされていくようだった。 「素敵だと、思います」 「ありがとう。アイーダなら僕の考えに同感してくれるって思った。鳥だって伴侶が死んだら、その後も一生涯独りでいる種類がいて。なのに人間の僕らが情欲に溺れるのは良くないと思うんだ・・・・・・って少し気障だよね」  照れ笑いをする彼に、アイーダは、なんだか心が温かくなる。 「よかった。同じ考えの人がいて。わたしも生まれは、ここからずっと遠い国だから。ここの慣習についていけなくて。婚姻前に、その・・・・・・」  アイーダが言う、生まれ故郷というのは、鈴木 みつ子で居た頃の日本のことだ。  今の日本なら、結婚前に異性と交わることは珍しくない。  それでも、アイーダとして生きているこの世界は、彼女にとって異常にしか見えなかった。 「身体を重ねるのは結婚してからじゃないと。愛し合っているからこそ初夜は意味があることだと思うんだ。それだけ神聖なものなんだと思う」  ルトの結論に、アイーダは心が花を咲かせたように明るくなる。  穏やかに微笑むルトの姿が、かつての同僚の佐藤さんと重なった。 (ルト、いい人だな。もしかして本当に佐藤さんだったりして)  いくらなんでも、それはないだろう。  けれど、期待が高まり、気づいた時には、アイーダは質問をしていた。 「あ・・・・・・あのっルト、さんは今の自分になる前の、ずっとずっと前の記憶とか、あると思いますかっ?」 「ん? えーと・・・・・・。そうだなぁ、そういうのって僕もあると思うよ。こうしてアイーダと会えたのも何かの縁だと思うし。将来、僕の隣に君が居てくれたら」  希望に満ちたルトの声の響きに、アイーダは初めて胸が高鳴る感覚を得る。  胸の奥がピンク色に染まるのを感じた。 「はぁぁぁぁぁいすとっぷぅぅぅぅぅ! アイーダぁ、だんなとイチャつきたいのはわかるよ~。でも休憩時間終了でぇぇぇすぅう!」  サナが黒髪を揺らしながら、ずいっとふたりの間に顔を突き出した。 「ち、ちがっ・・・・・・」 「是非そうなりたいよ」  アイーダが否定するのを待たず投下されたルトの宣言に、きゃーっと色めき立った声が上がる。  すっかりルトとの会話に浸っていたら、周りに一座が全員集合していた。  どこから会話を聞かれていたのだろうか。  またもや冷やかしの嵐に、もまれて恥ずかしい。  だが、アイーダも内心まんざらでも無かった。  恋愛なんて自分には無縁のものだと思ってたけど、関心を持たないようにしていたけれど。 『叶うかもしれない』  そんな考えが浮かぶのが、くすぐったくて、うれしかった。
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