第二章 輪廻の種子・麗しの舞姫

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「わぁっ」    紺青の夜空に散りばめられた、金色の星々と少し欠けた輝く月。  眼下に広がる街は、琥珀色の洋燈の明かりが灯る。  まるで、天と地が繋がっているみたいだ。  星たちのサンザメラキさえ聞こえてきそうだった。  吸い込まれそうな深い青に、どろりとした気持ちの悪さも消えてゆくかのようである。 「はい、アイーダ。シャーベット(すい)。よく冷えてるよ」 「ありがとう」  アイーダは、ルトから金属製の杯を受け取った。  ひんやりとしていて、持った瞬間、指先か熱を奪われる。    シャーベット水は、いわゆる砂糖水だ。  氷は入っていないけれど、湧き水みたいに冷たい。  ひと口飲むと甘い砂糖を溶かし込んだ液体が胸に沁み込んでいく。  瞬く星と透き通るような味のシャーベット水。  アイーダは、このふたつが共鳴している気分になった。 「ボクにもシャーベット水ちょうだいぃ」  景色に見とれていると、ムーニャがアイーダの額に頭突きをしてくる。  真っ黒な体毛が夜空と同化して、金色の目だけが浮いているようだ。 「わかってるわよ」  ルトに聞こえないよう、アイーダは小声で返した。  杯を傾けてやるとムーニャは頭を突っ込んで、ぴちゃぴちゃと舐める。 「ふぃ~、よく冷えてるにゃあ」  舌なめずりをするムーニャの顔はシャーベット水で、べったべたになっていた。  (部屋に戻ったら洗ってあげないと)  アイーダは困ったように笑う。  猫だけど、手のかかる弟か妹の世話をしているみたいである。 「どうしたの? なんか面白いモンでも見えたの?」 「ううん。本当に見事な星空ね。プラネタリウムもいいけれど」  不思議そうにたずねてくるルトに、アイーダは思ったままの感想を言う。 「ぷらねたりうむ?」 「あっ、本物は、やっぱり素晴らしいわね」  この世界には電気やITは存在しない。  アイーダは言い直した。  先端技術が古い記憶なんて、おかしな話だ。 「本物って、箱入り娘だったワケじゃないだろ?」 「え、ええ。まじまじと星を見る機会がなかったから」  訝しがるルトに、なぜだか妙な違和感を覚えた。  アイーダの胸中にもやもやした煙が漂う。  だが、彼女は思い過ごしと判断した。  さっきの舞台と国王のことが燃え残っているのだろうとーー。 「ありがとう、ルト。お陰でよく眠れそう」  隣に立つルトにアイーダは笑顔で礼を告げた。  このとき、自分に危機が迫っているなどと彼女が思う筈がなかった。 「ルト?」  声をかけても返事がなくて不思議に思い、彼の名を呼んだ。  それでも返事はない。
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