第二章 輪廻の種子・麗しの舞姫

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「ル、ト?」  彼は何も答えずアイーダを虚ろな目で見つめていた。  ユラ・・・・・・、とルトの体がアイーダのほうに近づいてくる。  たった今、アイーダの胸中にあった疑惑の念が濃くなった瞬間だった。  カシャンッ―――  静まり返る空間に杯が落ちる。  無言のルトはシャーベット水で甘く彩られたアイーダの唇を奪った。 (なっ、に―――・・・・・・?)  アイーダは何が起きたのか、すぐには理解できなかった。  目に映るのは満足そうに目を閉じたルトの顔。  合わさった唇の熱でシャーベット水がべとつく。 (やっ・・・・・・やだっ‼)  アイーダの頬に、つうっ、と涙が伝った。  脚がガクガクする。  この状態から抜け出したいのに、震えるカラダは思うように動かせない。  ゆっくりと唇を放したルトの顔は、今まで見たことのない雄の笑みを浮かべていた。  普段の気さくな笑顔は、どこにもなかった。  その瞬間、アイーダは、ルトの体を両手で力いっぱい押していた。  不意なコトに、よろめきルトは、しこたま尻もちを打った。 「デッ―――‼なにすんだこの(アマッ)‼」  友達(ルト)の言葉に、アイーダは愕然(がくぜん)とした。 「・・・・・・そ れは・・・・・・っ。わたしのセリフだわ。いきなり、キス、する、なんてっ・・・・・・。はじめて、だった、のに・・・・・・」 「んな、キスくらい大したことねーだろ! どんだけウブなんだよ踊り子のくせに」  ルトは尻もちをついたまま、アイーダを見上げ、悪びれもなく大声で罵る。 「昼間の話は・・・・・・。さっき、わたしを庇ってくれた言葉は―――・・・・・・っ」  目の前の男は、踊り子を物色している、いやらしい男たちと変わらない。  それが事実なのにアイーダは認めたくなかった。 「んあ―――。そんなの全部嘘だっつの!」  頭を掻きながらルトは鬱陶(うっとお)しそうに吐き捨てる。 「おまえさぁ、自分がどんなカラダしてんのか分かってんのか? デカい乳してよぉ。さっさと脚開きゃいいんだよ‼女なんて突っ込んで啼かすだけの穴なんだからよぉっ‼」  ガァンッと後頭部を殴られたみたいだった。  ガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。  床はあるのに足で立っている感触がなかった。  アイーダは足の裏が落ち切る前に、無意識の内に、走り出していた。
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