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「ル、ト?」
彼は何も答えずアイーダを虚ろな目で見つめていた。
ユラ・・・・・・、とルトの体がアイーダのほうに近づいてくる。
たった今、アイーダの胸中にあった疑惑の念が濃くなった瞬間だった。
カシャンッ―――
静まり返る空間に杯が落ちる。
無言のルトはシャーベット水で甘く彩られたアイーダの唇を奪った。
(なっ、に―――・・・・・・?)
アイーダは何が起きたのか、すぐには理解できなかった。
目に映るのは満足そうに目を閉じたルトの顔。
合わさった唇の熱でシャーベット水がべとつく。
(やっ・・・・・・やだっ‼)
アイーダの頬に、つうっ、と涙が伝った。
脚がガクガクする。
この状態から抜け出したいのに、震えるカラダは思うように動かせない。
ゆっくりと唇を放したルトの顔は、今まで見たことのない雄の笑みを浮かべていた。
普段の気さくな笑顔は、どこにもなかった。
その瞬間、アイーダは、ルトの体を両手で力いっぱい押していた。
不意なコトに、よろめきルトは、しこたま尻もちを打った。
「デッ―――‼なにすんだこの女‼」
友達の言葉に、アイーダは愕然とした。
「・・・・・・そ れは・・・・・・っ。わたしのセリフだわ。いきなり、キス、する、なんてっ・・・・・・。はじめて、だった、のに・・・・・・」
「んな、キスくらい大したことねーだろ! どんだけウブなんだよ踊り子のくせに」
ルトは尻もちをついたまま、アイーダを見上げ、悪びれもなく大声で罵る。
「昼間の話は・・・・・・。さっき、わたしを庇ってくれた言葉は―――・・・・・・っ」
目の前の男は、踊り子を物色している、いやらしい男たちと変わらない。
それが事実なのにアイーダは認めたくなかった。
「んあ―――。そんなの全部嘘だっつの!」
頭を掻きながらルトは鬱陶しそうに吐き捨てる。
「おまえさぁ、自分がどんなカラダしてんのか分かってんのか? デカい乳してよぉ。さっさと脚開きゃいいんだよ‼女なんて突っ込んで啼かすだけの穴なんだからよぉっ‼」
ガァンッと後頭部を殴られたみたいだった。
ガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。
床はあるのに足で立っている感触がなかった。
アイーダは足の裏が落ち切る前に、無意識の内に、走り出していた。
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