第三章 剥き出しに 芽吹き 果肉は柔い ☆

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「ふっ、うぅっ、ああぅうっ‼」   生理的な涙が、アイーダの目尻から流れていく。 (こんなの、感じたくない・・・・・・っ)  自分で願った。  助けを求めて目の前の悪魔にすがった。  でも、これは救いなんてそんな情け深いものとは程遠い。 「んっあっ」  冷たく、でも体は燃えつくすように熱い。  アイーダの願いを叶え、ヘサームは固さを増していく蕾を舌で舐めながら歯を立てた。  口腔内に包まれ、熱くて、濡れて、生々しい、濡らされてく感触。  指先で捏ねられる、じりじりとした火傷みたいな痛み。  双丘の頂きに与えられる異なるふたつの刺激に背中がぴくぴくした。 「やめっ・・・・・・てっ、ぃやっ、あッ」  やめて欲しくて両手をとにかく、めちゃくちゃに動かす。  本当にただ動かしているだけで相手にはまったく当たってはいない。  偶然にぺしり、と虫を払うかの力でぶつかるくらいだった。  彼女の細くやわらかな手は衣のしたに隠された鋼の肉体に弾かれるだけだ。 「鬱陶しい。今は踊らなくていい」 「やっ・・・・・・」  抵抗する細腕をごつごつした大きな手が掴み、そのまま頭上で纏める。  欲を孕んだ双眸と目が合い腰からぞくぞくとした感覚が這っていく。  衣掠れの音がしたかと思うと、ヘサームは自らの首にかけていた青絹を外していた。  何をする気なのか、熱と恐怖で混乱する頭でも、ぼんやりと分かってしまう。  両手首に滑らかな感触が巻きつけられた。  ヘサームの視線がじっとりと上半身を見つめる。  屈辱にアイーダは顔をそむけた。  自分の意思で胸をさらしたかのような状況が耐えがたい。  白い肌は紅潮し、乱れた息で豊満な乳房が揺れる。  青い手枷に自由を奪われた姿は、まるで舞台で舞う瞬間を切り取ったかのように妖艶だった。 「()は熟しているが、口づけ程度で泣き喚くとは見掛け倒しだな」 「・・・・・・っる さい・・・・・・。わたし・・・・・・には、そうじゃ ないのっ・・・・・・!ウブな生娘でっ・・・・・・悪いの―――っ・・・・・・」  さっきまでの怒りが一気にぶり返し、アイーダは叫んでいた。  ――いや叫びたかった。  声に出して言葉にはなっていたけれどほとんど嗚咽に塗れていた。  いくら舞台で裸に近い恰好で踊っていても、隠す一枚の布があるのと何も隠すものがないのとでは雲泥の差だ。  他の女たちは、こんなこと普通なのかもしれない。  それどころかむしろ歓迎している。  そういう世界なのだから。  だが、この世界で生まれ育った記憶のないアイーダ《みつ子》に受け入れられるはずもない。 「んッ―――!!」。  ヘサームの唇に嗚咽が飲み込まれる。  アイーダは反射的に開こうとする瞼をぎゅうぎゅう瞑った。  ちゅっ・・・・・・くちゅっ・・・・・・。  卑猥な音が唇から洩れる。  何度も何度も角度を変え、呼吸も、触れた瞬間の熱さえも奪う。 「ぁ、はっ・・・・・・、んんんっ・・・・・・―――」  一瞬離れた唇がまた重ねられる。激しく、深く、激しく、深く深く・・・・・・。 「んんっ・・・・・・っん―――」  刹那の呼吸すら許されず、胸が苦しくなる。  酸欠からか頭がぼーっとし、くらくらしてきた。  意識と無意識の境界がぼやけ、さっきの男の裏切りの痛みなのか、今目の前にいる、男の口づけのせいなのかすら分からなくなっていた。 「ンッ!」  突如舌先に何かが触れて意識が飛び起きる。  合わさった唇の中心をこじ開け、ヘサームの舌が侵入したのだ。  にゅるにゅると舌が絡まされ口腔内が唾液で溢れ返る。  口先だけですら意識を奪われたのに。  体の芯にまで届くようなキスにアイーダは自身を奪われている錯覚にすら陥った。 (ディープ・キスだって初めて、なのに。なんでこの世界の男はみんなこうなのよ)  叫びたくてもそれは喉奥で震えるだけで。 「んっ・・・・・・ふ・・・・・・っ、うぅんっ・・・・・・」  舌さえも逃げる術がない。  強く吸われ、甘噛みされる。  鼻だけではく、脳内までも麝香で満杯になった気がして瞼を開けていることすら辛くなる。  くちゅっ―――。  淫らな一音を奏で、唇が離れ互いの唾液が混ざり合った銀糸が紡がれた。  本来ならば、これは愛情の絆の証と言えるだろう。  アイーダにとっては自分を拘束する青絹の一糸としか思えなかった。 「ぁっ、はっ・・・・・・、はぁっ・・・・・・、んぅっ・・・・・・」  慌てて口から空気を吸い込むが、アイーダの唇はふたたび塞がれる。  顔を逸らそうとしても顎を掴まれ適わない。  体中が彼の香りに支配される。  濡れ切った唇にヘサームの口づけは一層激しさを増した。
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