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「‼」
(鍵がない)
そうだ。昨夜はルトの口車に乗せられ部屋には帰ってこなかった。
つまり舞台の前に部屋を出たきりで、南京錠は外からかけられている状態だ。
じゃあ、どうして自分は部屋の中にいるのか。
『終わったらな』
ヘサームの言葉がアイーダの脳内を蹂躙する―――。
昨夜の悪夢のような出来事が脳内で再生され、アイーダの意識にべっとりと、へばりついた。
あの生々しい、体の中で男の生殖器が暴れる感触。
それを咥えさせられた膣奥の筋肉が収縮した。
「――ッ」
太腿が痙攣し、膝が、がくりと崩れる。
(一生縁のないことだと思っていたのに)
ひと晩で、ふたりの男に唇を奪われるたことだって充分ショックなのに、信頼していた男には裏切られ、一番苦手な男には純潔まで奪われた。
(で、でもヘサーム王は、どんな女性とだって一夜限りだって言うし)
もう、一度襲った自分には、関わらない筈だ。
それだけはある意味救いかもしれない。
しかし、部屋から出られないとは。
床に、へたりこんだアイーダは変わりばえのしない木製の扉を見上げた。
なんだか王の手中に落ちた気がする。
(閉じ込められたってこと?)
絶望感が体中の水を吸い取って、心が、からからになっていく。
(でも、あんな男たちの前で踊るよりはマシかもしれない)
鍵が手元にないのだから、舞台に出られなくても咎められることはない。
少しほっとして部屋の中を見回した。
すると窓が目に入り、周囲に助けを求めるという選択肢が顔を出す。
逆に部屋から出なくてもよいという選択肢が、なりを潜めた。
床に手を付き、アイーダは、ぐっ、と重たい身体を立ち上がらせる。
窓のほうへ一歩踏み出した瞬間、ずぼっと首の後ろの髪の毛に、もふもふしたモノが突っ込んできた。
「案の定、眠れなかったようだな」
麝香の香りが鼻をかすめる。
昨夜自分の体を奪った男が、ずかずかと部屋に入ってきていた。
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