第三章 剥き出しに 芽吹き 果肉は柔い ☆

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「安心しろ。媚薬など入ってはいない。薬も私の薬師が調合した」  露骨に怪しむアイーダを前に、ヘサームはスプーンを手にする。  彼は料理と杯の薬を自らの口に運んで見せた。  驚くアイーダに、ヘサームは続ける。 「今宵も、おまえの舞を愉しみにしているぞ」  にやりと笑い、彼は召使とともに部屋を後にした。 (びっくりした・・・・・・。まさか毒見するなんて)  でも、これで安心だ。  アイーダは、気を取り直して中皿の料理を口にした。 「おいしい」  なんだか疲れた体に沁みこんでいくみたいだった。  ひとくち、ふたくちと食べ進めるうち、気がつけば、すべて平らげていた。  液体状の薬が入った隣の杯も、いい調子で手にとる。  薬と聞くと、やはり飲む前に躊躇してしまう。  とまどいつつアイーダは、ひとくちだけ飲んでみた。 「・・・・・・飲みやすい」  さすが国王専属の薬師だけある。言われなければジュースと思ってしまうくらいだ。アイーダは、ごくごくと杯の残りを飲み干した。 「ねぇ、アイーダ」 「なに? ムーニャ。ご飯なら」 「それも重大だけどさっ。その、今のって間接キス」  カシャーンッと、今度は高い金属音が床で鳴った。  アイーダはぶるぶると震えながら、落としたスプーンを凝視する。  ヘサームは杯自体に口をつけたわけじゃないけど、彼は、さっきスプーンで食事も薬もすくって食していた。  ムーニャの指摘を受けて、和らいでた気持ちが強張った。 (絶対に、わざとだ)  ほんのわずかでも見直してしまったことをアイーダは後悔する。   キスが些細なことと言い捨てて、夜な夜な女を食い漁る人だ。  間接キスなんて、呼吸することと同じで、なんとも思っていないに、ちがいない。  激しい後悔と怒りがアイーダの体中を巡った。 (なんなの、あの男)  スプーンを食卓に戻し、アイーダは、ぼふっと寝台に体当たりするように横になる。  ムーニャは「ご、ごめんにゃぁ」と表情で耳と尻尾を下げていた。  アイーダを思ってのことだったが、蛇足だったと、しょげている。 「ほ、ほらっ。お花はキレイだよぅ!」  食卓に添えられていたアネモネとスミレを抱え、ムーニャはアイーダの枕元に飛んでくる。  ふたつの花は、砂漠の中とは思えないほど瑞々しい。  本当に、どうしてなのだろうか。  そんな疑問が、ぽつり浮かんだが、アイーダの意識は眠気にさらわれてしまう。  甘い口当たりの薬が、唾液と混ざって喉にねっとりと残っていた。
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