第三章 剥き出しに 芽吹き 果肉は柔い ☆

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「え―――?」 「エ―――⁉お魚は? 羊は? 牛肉はぁっ?」  ムーニャが食堂を360度見まわしながら、四方八方に飛んで叫ぶ。  料理どころか、誰もいない。  殺風景な白い長方形の空間があるだけで。  アイーダは、訳が分からず、来た道を走った。 「ジャスミンッ、ジャスミン‼」  ダン、ダン、とアイーダは一階にあるジャスミンの部屋の扉を叩いた。  返事はない。  アイーダが取っ手を回すと扉が開く。  寝台と寝台横の鏡台に、姿見と箪笥。  アイーダの部屋と同じ家具があるだけ、食堂と同じく殺風景な白い壁の部屋があるだけだ。 「アイーダ様」  感情の読み取れない女性の声がしてアイーダは後ろを向いた。  そこには数人の女官が立っていて、召使同様、全員判を押したような見分けのつかない容姿をしている。 「本日から後宮(セラグリオ)にて生活して頂きます」 「後宮(セラグリオ)っ? そんな、どうして」  突然の言葉にアイーダは吃驚した。  つい先刻まで下宿扱いだったのに、なぜ王妃候補たちの住まう場所に移動するのだろうか。 「貴女は本日より、シェラカンド王宮付きの踊り子となりました。今後はすべて王の命に従って頂きます」  突きつけられる事実にアイーダは眩暈(めまい)がした。  王宮付きの踊り子? すべて王の命に従う?  つまりそれは、ヘサームの奴隷になるということではないか。 「ま・・・・・・っ、まってください。どうして、わたしがっ・・・・・・。みんなは?」 「ルンマーンの座長には、必要分の対価を陛下が支払われました。お荷物は既に後宮(セラグリオ)へ運んであります」  困惑するアイーダに、こちらへどうぞ、と女官が案内する。  案内などという丁寧なものではなく、アイーダは女官たちに前後左右を囲まれ、強制的に連れて行かれた。 (わたしはヘサーム王に買われたってこと―――?)  カラカラと伽藍洞(がらんどう)(うつわ)が音を立てる。  カタ―――ン、と乾いた音がアイーダの奥で鳴った。
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