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(‼どうしようっ・・・・・・‼やっぱり破け・・・・・・)
みつ子は血の気が引いたが、それは一瞬のことだった。
築40年の床と同化しそうな程変色していている表面。
あちこちに染みがあり、くっきりと折り痕が付いている。
膝を付いて破かないように、そぉっと両端を摘んで持ち上げた。
(アラビア文字・・・・・・?)
当たり前だが、全然読めない。
独特の筆致で書かれた文字が並んでいる。
恐らく間に挟んだまま返却してしまったのだろう。
カラーボックスの中からクリアファイルを取り出し、茶色い紙を入れローテーブルの上に置いた。
破れていないか開かれた頁を再度確認する。
(星?)
小学生の時、よくノートの端っこに落書きしたカタチが挿絵に描かれていた。
『スレイマンの紋章』と右頁の一文が目に入った。
「んにゃあおぅッ‼」
足元から再び催促コールが鳴る。
「はいはい。今用意するから」
立ち上がり、密閉容器に仕舞われたキャットフードをステンレス製のエサ皿に盛ってやる。
クロはサイレンみたいに声を上げながら足首に纏わりつき、エサ皿が目の前に置かれた途端、はぐはぐと、がっついた。
「ごはんの時だけ調子がいいんだから」
みつ子は軽く微笑って台所に移動した。
冷蔵庫から3人分はある牛蒡、人参、蒟蒻を取り出す。
タン、タン、タン、タン―――。
まな板で牛蒡を切る音が狭い部屋に反響する。
台所窓に置いたラジオからは夕方のニュースが流れていた。
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