第三章 剥き出しに 芽吹き 果肉は柔い ☆

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 透かし彫りの、連窓から入った光が、まろやかな美しさを引き立てている。 「おぉ~っ‼ザ・アラビアン・ナイトってカンジだねぇ」  もふっと、ムーニャがアイーダの頭に乗る。 「しかも、気持ちいいねぇ~、ふあ~、いい風~」 「うん」  宿泊部屋も涼しかったが、後宮(ここ)は楽園のようだ。  王宮は、聖泉を囲むように建てられており、灼熱地獄の砂漠の直中にありながら、冷然の風が行き渡り、快適に過ごせた。  その中でも、特に後宮(セラグリオ)は快適な場所にあった。  昔読んだアラビアン・ナイトの王女が住んでいそうな部屋に、アイーダも一瞬心が躍ってしまった。  こんな状況の世界の一角でなければ、手放しに大喜びしただろう。 「必要な物がございましたら、お申しつけください」  一礼して女官たちは部屋を出て行った。  吹き抜け上の空間に扉の閉まる音が虚しく響いた。  ひとりで過ごすには広すぎる。  女のバトルに巻き込まれずにすんだのはよかったが、逆に落ち着かない。 「うわぁ~‼ゴージャスだねぇ~‼ふっかふか~‼」  早速ムーニャはベッドで、ぽぉんぽぉんとトランポリンをしている。 「ホラ、アイーダもぅ‼こんな高級ベッド、なかなかお目にかかれないよぅ‼」  はしゃぐムーニャの声に誘われて、アイーダはおずおずと寝台に近づいた。  腰を預けると、上質な綿で作られた布団は、柔らかくも沈み込まずアイーダの体を受け止めた。その感触に心が浮き立つ。 「ホラホラッ‼アパートでもいっしょに、ごろごろしたじゃんッ‼」  ムーニャがお腹を出してごろごろと喉を鳴らす。  クロの頃と変わらない姿に懐かしくなり、アイーダも全身をベッドに投げ出した。  まるで恋しい前世の頃に戻ったみたいだった。  アイーダがムーニャに笑いかけていると、不意に別の声が降ってきた。 「やはり、おまえも他の女と変わらぬな」  上がりかけていた気分が一気に落下する。  一番会いたくない、でも、こちらの言いたいことも、ぶつけなければ気が済まない。  そうなると一番会いたい相手とも言える。  部屋に麝香の香りが漂う。  最も会いたくなくて、会いたい相手——ヘサームは不敵な笑みのまま、鷹揚(おうよう)に歩み寄ってきた。  寝台でごろごろしていたムーニャは、いつの間にか、アイーダの髪の中に入り込んでいた。  浮かれている姿を見られ、アイーダは、あせって立ち上がった。
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