第三章 剥き出しに 芽吹き 果肉は柔い ☆

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「・・・・・・なぜ、わたしを? わたしだけ、どうしてっ?」 「おまえひとりで事足りるからだ」  アイーダの問いかけにヘサームはあっさり返答する。 「わたし、ひとり?」  ヘサームの言葉の意味が分らず、アイーダは瞳を揺らした。  しかし、彼にとってはアイーダの疑問など、取るに足らないらしく、そこで会話が途切れる。 「賄い《まかな》はどうだ?」 「え? 美味しいです・・・・・・」  逆に質問され、アイーダは正直に答えていた。 「宴で出す食材は、全て我が国の産物。全て極上の品だ」  断言するヘサームにアイーダは少々ひく。 (すごい自信。賄いは、本当に美味しいけれど)  国賓たちに出す料理だし、“余りもの“とは言っても、余り、とは言えない。 「だが、近頃それだけでは鼻薬が効かぬ輩も奴らも出てきてな。おまえの一座 の前にも、幾つか旅芸人を呼んだが。貴族女を抱き慣れてる奴らは、ちっぽけな果実では満足しない。奴らを黙らせるには極上の果実が要る」 「ッ‼」  骨ばった大きな手に顎を掬われ、ぐっと赤と青の双眸が近づく。  ドクドクと心臓が鳴って、アイーダは喉がカラカラになる。  口腔内から落ちた唾液が乾ききった喉にシュッと呑み込まれていった。 「ルンマーンの踊り子・宵の翠玉は大層な評判。餓えた奴らには極上の餌だ」 「―――‼わたしはっ、あなたの道具じゃないわ」  ヘサームの手を顎から離そうと、アイーダは両手で掴むが、びくともしない。 「ンッ―――」  腰に手を回されたと、認識するかしないかの内に唇が塞がれた。 「んっ・・・・・・ふ、っぅ」  昨夜こじ開けられた秘窟(ひくつ)と同じく、必死に引き結んだ唇が舌でこじ開けられる。  逃げ惑う舌を巻きとられ、生々しい感触が恐ろしくてアイーダは目をつぶった。  顔を逸らそうとしても、顎を固定され、腰も逞しい腕に囚われて一ミリも動けない。  粘り気のある水音が鳴り、頭がいっぱいになる。 (いやっ・・・・・・‼)  アイーダの、うすら開けた目には自分の唇をいいように味わい、(もてあそ)ぶ王の顔が映った。  その顔が、昨夜のルトと重なる。  けれど、目の前の男からは逃れられる気がアイーダはしなかった。  一方的に絡められる舌。上唇も下唇も啄まれる。  洋画みたいな、食べているかのような、キス。 「んっ・・・・・・んんぅ」  数秒前までカラカラだったアイーダの喉は、口の中を嬲る舌で潤いを与えられ、泉になっていた。  喉へと落ちた唾液は媚薬のように惑わすし、唇の端からとろ、と混ざりあった唾液が零れる。  呼吸すらも飲み込まれて、頭が万華鏡のように、くらくらと回った。  体中が熱くなって、力が抜けていく。アイーダは無意識のうちに、ヘサームの唇を受け入れていた。  アイーダの太ももの間が、きゅうっとなる。  潤っているのは、口の中だけでは無かった。  一際大きなリップ音を立てて漸く唇が解放された。 「ぁ・・・・・・っ、はぁ」  胸にいっぱい空気を吸い込み、アイーダは呼吸を整える。  涙目に、湯上りのような上気する頬。  濡れた吐息を漏らしながら、肩上下させる彼女に、欲情しない男はいないだろう。  一度解放された雌の本能。強引に拓かれたとは言え、一度目覚めた女性性は確実にアイーダを女として目覚めさせていた。
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