第四章 咲き乱れし花と・・・・・・ ☆

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「意っ外だな~‼も~っとさ~、高慢ちきなオンナかと思ってた‼」  おおげさな声を上げたのは赤茶髪の楽師だった。 (わたし、そんなに高飛車に見えていたのかな)  彼の言葉には、べつの意味でへこんでしまう。  みつ子でいた時も、外見はコンプレックスだらけで、馬鹿にされていた。  見た目で判断されたくはないが、180度ちがう今の姿でも、悪い印象をもたれているとは思っていなかった。  ルンマーン一座の踊り子の中にも、アイーダに対して陰口を吐く者がいたように、彼女の引っ込み思案すぎる振る舞いは、鼻に着くと受け取られたのだろう。 「詫びんなら、とっとと自分の仕事をしなー‼てめーらもチンタラすんな‼」 「ていうか時間無駄にしてるの、ヴァファーとジャバードだよ」  短髪の黒髪にカフィーヤを額に巻いた楽師が冷静に突っ込む。  言葉の少ない楽師も深く頷いた。 「ぼくらは、全員シェラカンド生まれのシェラカンド育ち。音楽学校からの腐れ縁。ぼくはハーディ、隣はイスマーイール。で、もう覚えたかもしれないけれど、念の為、ジャバードとヴァファー」 「よろしく」  言葉数の少ない、イスマーイールが淡々と挨拶する。  イスマーイールはこの国の人間にはめずらしく、露出の少ない恰好をしていた。カフィーヤを被り、長袖の上衣と足首部分をすぼめた太いパンツを履いている。 「よ、よろしくお願いします」  アイーダは三度、深々と頭を下げた。 「ヘサームのヤツが強引なのは毎度毎度のことだし、気負うのも分かんなくはね~よぉ‼」 「きゃぁああああああッ‼」  ヴァファーに引きずられていったはずの赤茶髪の楽師、ジャバードに抱きつかれ、アイーダは悲鳴を上げる。 「やっば‼すんげ~気持ちい~‼・・・・・・その辛気臭い服脱がね~?」  下心丸出しな眼差しを向けてくるジャバードにアイーダは硬直するしかない。 「だッ‼」 「油売ってんじゃねー‼練習はじめっぞ‼」  ヴァファーがジャバードの後頭部を、ぼかり、と殴り、再びずるずると引きずっていった。 『ね~‼バカ力だろ~‼』と、ご丁寧にジャバードが身振り手振りで説明するのも二回目である。  そのやりとりが可笑しくてアイーダは思わず笑っていた。 「キミ、その顔してたほうがいいよ。四六時中。」  淡々とした口調から、今の声はイスマーイールだろう。  アイーダがイスマーイールのほうを向いた時には、彼は壁際に立てかけてある楽器のほうにいた。  とまどったまま、そのちいさな背中を見つめていると、ハーディが言葉を補足する。 「ぼくもイスマーイールに賛成。アイーダ、ずっと八の字眉にへの字口になってたよ。そんなんだとシェラカンド専属の踊り子なんて務まらないよ」 「・・・・・・はい」  ハーディも踵を返して楽器を取りに行く。ジャバードとヴァファーも楽器を手にしている。 「だいじょうぶ? みつ子」  ムーニャが心配そうな声を出す。 「だいじょうぶ。あの人たちに、迷惑をかけるわけにはいかない」  眉を下げるアイーダに、ムーニャは、すりすりと頬をくっつけた。  これも、ヘサームの手だったのかもしれない。  生真面目なアイーダなら、例え自分にとって不本意なことでも、周囲に影響するならば、受け入れると。  頬に懐かしい体温を感じながら、みつ(アイーダ)は艶めかしく舞うための準備を——・・・・・・、踊り子・アイーダになるための覚悟を決めた。
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