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二十代の女性にしては飾り気の無い部屋。
装飾は一切無く、必要最低限のものしか無い。
ベランダに面したダイニングには、小型のテレビが置かれ、その一直線上に折り畳み式ローテーブルと座椅子があった。
本人もセール品のグレーのスウェット上下を着ている。
他に家具というと、引き出しが半透明の移動式チェストと本棚代わりのカラーボックスがあるだけだ。
『明日の予報です。降水確率は20%でしょう』
鉄鍋できんぴらごぼうを炒めながら、ラジオの音を耳に挟んだ。
(魔神を操れるマークなんだ)
真っ暗の中、折り畳み式ローテーブルを壁に立て掛け、床に敷いた布団の中でスマホ画面を眺める。
昼間見た本に書かれていた『スレイマン』というワードを検索すると、そんな結果が出て来た。
小さい頃絵本で見た、ランプの魔神が頭に浮かぶ。
ランプをこすったら中から魔神が現れて願いを叶えてくれる。
いいなぁ、なんて、わくわくしながら異国のムードに夢中になっていたものだった。
それで、なんとなく作品の原点に触れたいと思い立ち、図書館で原作本を借りたのだ。
(でも、まさかあんなにエロティックな内容だったなんて)
子供向けに改編されていることは、ふつうにあるけれど、シンデレラや白雪姫よりも、ショッキングだった。
スマホを枕元に置いて、みつ子は布団にもぐり直す。
(宝石の生っている木とか、かしこい召使の女の人とか素敵だったのにな)
懐かしい色鮮やかだった記憶に浸りながら、みつ子は目を閉じた。
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