第四章 咲き乱れし花と・・・・・・ ☆

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 夕日は名残惜しさに、その身の色を残しながら、藍青(アジュールブルー)に飲み込まれ姿を消す。    今宵も肉欲の宴の始まりを告げた。  大広間では、通常よりも大勢の客で埋め尽くされていた。 「宵の翠玉が、シェラカンド付きの踊り子になったとか」 「これで、わざわざ逗留先を探さんでも済みますな」  銀の杯を傾けながら、下膨れ顔の国王と丸顔の国王が顔を見合わせる。 「まぁッ!所詮は道端の石ころではありませんの‼」 「愛でるのは、そのお目だけになさってくださいね‼」  ふたりの膝に乗る貴族令嬢が金切り声を上げる。  砂漠のど真ん中にある大国での変わり事は、大小関係なく、すぐさま知れ渡る。  極上の料理に、美酒に、淫楽に溺れる客の間をファティが召使、女官と共に行き来する。 「あ~くそっ‼こちとら、これから仕事だっつ~のに、あ~・・・・・・。目の前には超美人がいるっつ~のにさ」  舞台奥の通路から、客人たちの情交を覗き見しているジャバードは、お預け喰らった犬のようにアイーダを見る。  なんとも反応しづらく、アイーダは苦笑いした。  シャリッ、と衣装のコイン飾りが鳴る。両腕で胸を隠しながら、頬が恥ずかしさに全身が熱くなるのを感じた。 「キミって絶滅危惧種だね」 「イスマ。オレは棚じゃねえっての」  頭に楽器を置かれ、ジャバードがイスマーイールに苦情を漏らす。 「ほらほら。本番前に主役をからかうんじゃないよ」  ハーディがジャバードの耳を引っ張った。 「くっ、ハーディ、てめっ・・・・・・ぐげぇッ」 「イチイチこいつのゆーこと、真に受けんじゃねー‼客を落とすことだけ考えりゃーいい‼」 「は、はい・・・・・・」  そしてヴァファーがジャバードの首飾りを引っ張る。  少しジャバードが、かわいそうに思えるが、アイーダはこの世界で初めて青春っぽいものを見た気もした。 「・・・・・・そろそろだね」  ジャバードに乗せた楽器を持ち直し、イスマーイールが呟く。  召使たちが大広間の灯をひとつひとつ消していく。  こちらに僅かに届いていたオレンジ色の光がふっと消える。 「じゃあ、行くよ」  ハーディが合図した。 「はっ‼とんぼ返りさせられた鬱憤、晴らさせてもらおーじゃねーか‼」 「今夜は音まちがえないでよね。ジャバード」 「イスマ! いちいち、うるせッ‼アイーダ、終わったらご褒美ちょ~だいね」  四人は一足先に舞台へと足を向ける。  ぞくり。  その姿にアイーダは体中がざわついた。  一歩―――。舞台へ踏み入れた途端、彼らの纏う空気が一変する。  減らず口を叩いていた奴らとは思えない、伶人(れいじん)へと変わった。
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