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高らかな太鼓の律動、空気を震わす弦と煙のように揺らぐ笛の倍音。
鼓膜から入った音は全身に振動して、胸の中に入ってくる。
苦しいくらいの鼓動。鳥肌が立つ感覚に、二の腕を掴む手に力が入る。
ルンマーンの楽師たちの演奏しか聞いたことがないけれど、彼ら《・・・》の腕が並みではないことは、二時間前の初稽古でも感じた。
重厚な調和を奏でながらも、ひとつひとつの音粒が躍っている。
自らの体の感覚に戸惑いながらも・・・・・・。
なんだか、無性に踊りだしたくなる。
その音の群れに、アイーダは心臓に直接触れられている錯覚に陥った。
それは、紛れもなく『アイーダ』として、この世界で生まれ育ち、踊り子・宵の翠玉として名を馳せてきた形無き意識の証明だった。
アイーダは、高ぶる体と神経の手綱を握りながら、自分を誘う響動の中へ舞出でた。
「おおっ!」
客席から驚きと喜びの歓声が上がった。
極上の音楽の中で、しなやかに舞う艶めいた躰。
鈴生りのコイン飾りが、しゃらしゃら歌う。乳白色の薄布は胸の先端と、太ももの間を覆うだけ。
細い腰が蠢くたびに、豊満な乳房は揺れ、その柔らかさを眼中に焼きつけてくる。
暗闇の月明かりに、金色の髪はきららかに。真珠の肌が、ふわりと香る。
艶めかしい肢体が舞うごとに、翻る長い飾り帯に桃のような臀部と爪先までの曲線が透けている。
その姿は、まさに夜の光のもとで妖艶に輝く宵の翠玉。
「美しい‼あぁたまらんのう‼あの女体‼」
「麗しい顔と体に、なんとも甘美な舞だ」
「あの乳房は、まさしく西瓜ですなぁ‼」
客席の男共は、次々に下劣な眼で宵の翠玉に、食いついていく。
寝椅子で脚を伸ばすヘサーム王は、口端を静かに上げた。
樹から捥がれ、歯を立てられ、香りを放つ果実は、餓えた群衆の渦へと落とされた。
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