第四章 咲き乱れし花と・・・・・・ ☆

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「陛下」    ヘサームの元に、銅(あかがね)の髪を靡かせた王女が歩み寄る。 「これはシュラ王女。我が主催の宴、楽しんでおられますかな?」 「ええ、とても・・・・・・。陛下に耳寄りな情報を」  ヘサームは目を細める。 「それは、どのようなものですかな?」 「今夜はわたくしと過ごして頂けます事?お父様に輸入(しゅにゅう)の件、ヘサーム様の御心に添える様、お願いしてみますわ」  シュラは寝椅子の前に跪き、上目遣いでヘサームを見上げる。 「奇遇ですな。私も同じことを考えていた」  ヘサームは長い指で王女の顎を掬った。シュラは雌の色を孕ませた目で、ヘサームの双眸を見つめ、艶紅を引いた唇を僅かに開いた。 「ン・・・」  くぐもった王女の声が、ヘサーム王の唇に飲み込まれていった。  音楽が止まった瞬間、大喝采と割れんばかりの拍手が起きた。 「はぁっ・・・・・・、はっ・・・・・・、はぁっ」  観衆の声に紛れて、アイーダは大きく肩を上下させて呼吸する。  これまでも息は上がったけれど、今夜のはちょっと違う。そう、燃え尽きたような。  ぶわっと噴き出す汗さえも、すごく気持ちいい。こんなの初めてだ。  4人と一緒に客席へお辞儀をし、どきどきと高鳴る心臓を宥めながらアイーダは舞台裏へと戻った。  高鳴る心臓をおとなしくさせる為、ポンチョで身体を覆う。真っ黒な布の下で興奮に震える自身をぎゅっと抱いて撫でた。 「超よかったよアイーダ~‼」 「ひゃあッ‼」  首と背中にどかっと重い衝撃。と同時に、どたんと床が鳴る。  ジャバードに背後から抱きつかれ、アイーダは前のめりに倒れてしまった。    ヘサーム王程ではないが、やはり大人の男性。腕の力は強い。圧し掛かられるこの体勢では抜け出すのも不可能だ。 「お調子者」    イスマーイールが呆れた声を出す。 「てめー、酔ってんのかー?‼楽器はシラフで引くのが流儀だろーがー‼」 「ぐぇッ‼人の恋路ジャマすんな、くそ力‼」  ジャバードの声が体重といっしょに上へと離れていく。 「ジャバードは、そんなだから女の子に逃げられるんだよ」  ハーディに手を差し出され、アイーダは遠慮がちに手を握って立ち上がった。「オマエも抜け駆けすんな‼」とジャバードの声が降ってくる。  ジャバードは、またもやヴァファーに首飾りを掴まれていた。  「また明日」  そう言いながらイスマーイールは、さっさと貴賓室へと続く通路に歩いて行ってしまった。 「あ、お疲れ様でした」  アイーダは楽器を背負った、ちいさな後ろ姿を見送った。 「宵の翠玉の名は伊達じゃないね、こんな大喝采、浴びたことないよ」 「あ、ありがとうございます」  賞賛の言葉に、むず痒くなる。高揚感と相まって、何とも居た堪れない。 「明日も頼むぜー‼」 「は、はい・・・・・・。こちらこそっ」    ヴァファーの言葉にアイーダは頭を下げる。一番厳しげだった彼に、そう言われると、少しだけ認められたような気持ちになった。   「あ~。でも、そのジャマ臭い真っ黒い布がなけりゃあな~」  首飾りを掴まれたままのジャバードが、アイーダのポンチョの端をぴら、と持ち上げる。 「オラ‼てめーさっきも間違えたろ‼鍛え直しだ‼」 『コイツくそ力でしょ~』の表情と身振り手振りを残しながら、遠ざかるジャバードに、アイーダは手を小さく振った。 「お迎えに参りました、アイーダ殿」  寸劇状態だった舞台裏にファティの落ち着いた声が響く。  ほんの数分前まで、客の間を行き来していたとは、微塵も感じさせない穏やかさだ。 「先刻の舞、大変すばらしかったです。主も喜んでおられます」 「ありがとうございます」 (本当にそうかな)  賞賛の言葉は正直うれしいが、あの淫乱暴君が、果たして自分の踊りを喜ぶかは、微妙な気がする。  さっきは踊るのに夢中で、ヘサーム王の視線にすら気が付かなかった。
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