第四章 咲き乱れし花と・・・・・・ ☆

9/18
前へ
/225ページ
次へ
「アイーダッ!!」  ファティの案内で、後宮に、たどり着くと、なんと扉の前でルトが待ち伏せていた。 「アイーダッ!きのうはごめんっ・・・・・・! ちょっと飲み過ぎててっ」  この類の男の言い訳は、前世(みつ子)の時も、ネットや同僚たちの雑談で、さんざん耳にしてきた。 「ルト殿。アイーダ殿は疲れています。賞賛の言葉でしたら、後日改めて」 「いや、あのっ・・・・・・‼」  ファティはルトを遮りながら、アイーダに後宮へ入るよう促した。 「アイーダッ!!」  アイーダはファティに会釈すると、鬱陶しいルトの声を振り切りながら、花のモザイク扉の中へと引っ込んだ。 「おかえりぃ。アイーダ」  アイーダが扉を開けると、寝台の上でムーニャが出迎える。  眠りこけていたらしく、黄色い目が半開きになっていた。   しかし、アイーダは無言のままだった。  高揚感に、ふわふわする躰。なんだか歩いてる感触も変だ。 「アイーダ?」  返事のないアイーダに、ムーニャはもう一度声を掛ける。  それでもアイーダの気分は、ふわふわ浮いたままで心ここにあらずと言った感じである。  アイーダは、広すぎる寝台に腰を下ろした。   空は、すっかり暗闇に包まれていたが、部屋は洋澄の琥珀色の光に照らされていて、昼間よりもスイートルーム感が増している。  噴水の水音が、夜の静けさに心地よく響いた。 「みつ子ぉ?」  まったく相手にされず、少々いじけるムーニャがアイーダの膝に乗る。 「にゃっ」   ムーニャがちいさく声を上げ、空中に放りだされた。  力が抜けたアイーダが、そのまま重力任せに、ふかふかの布団に背中を預けたからだ。 「はぁっ・・・・・・」  アイーダは息を吐きだす、でも、いつものとはちがう。  まだ、どきどきしている心臓を落ち着かせるためのものだ。  わずかに輪郭を帯びる天井の鍾乳石装飾。  真下から見上げると万華鏡のように広がる。  夜風が運ぶ花の香り。  アイーダの体の中で熱が対流して、泡沫が生まれては消えていく。 「みつ子。そのまま寝たら風邪ひくよぉ?」  舞台の余韻に浸り過ぎて、舞台衣装のままであることをアイーダは、すっかり忘れていた。  ポンチョを脱いだ瞬間、ひやりとした部屋の空気が襲ってきて、裸同然の恰好だと改めて感じる。  こんな変態趣味の恰好で堂々と踊りまくっていた自分が、今更になって恥ずかしくなってきていた。  アイーダは舞台衣装を脱ぎ、私服のワンピースに着替えた。   着慣れた服に体が包まれて、少し落ち着く。  ふぅ、とアイーダは小さく息を吐いた。
/225ページ

最初のコメントを投稿しよう!

139人が本棚に入れています
本棚に追加