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「アイーダッ!!」
ファティの案内で、後宮に、たどり着くと、なんと扉の前でルトが待ち伏せていた。
「アイーダッ!きのうはごめんっ・・・・・・! ちょっと飲み過ぎててっ」
この類の男の言い訳は、前世の時も、ネットや同僚たちの雑談で、さんざん耳にしてきた。
「ルト殿。アイーダ殿は疲れています。賞賛の言葉でしたら、後日改めて」
「いや、あのっ・・・・・・‼」
ファティはルトを遮りながら、アイーダに後宮へ入るよう促した。
「アイーダッ!!」
アイーダはファティに会釈すると、鬱陶しいルトの声を振り切りながら、花のモザイク扉の中へと引っ込んだ。
「おかえりぃ。アイーダ」
アイーダが扉を開けると、寝台の上でムーニャが出迎える。
眠りこけていたらしく、黄色い目が半開きになっていた。
しかし、アイーダは無言のままだった。
高揚感に、ふわふわする躰。なんだか歩いてる感触も変だ。
「アイーダ?」
返事のないアイーダに、ムーニャはもう一度声を掛ける。
それでもアイーダの気分は、ふわふわ浮いたままで心ここにあらずと言った感じである。
アイーダは、広すぎる寝台に腰を下ろした。
空は、すっかり暗闇に包まれていたが、部屋は洋澄の琥珀色の光に照らされていて、昼間よりもスイートルーム感が増している。
噴水の水音が、夜の静けさに心地よく響いた。
「みつ子ぉ?」
まったく相手にされず、少々いじけるムーニャがアイーダの膝に乗る。
「にゃっ」
ムーニャがちいさく声を上げ、空中に放りだされた。
力が抜けたアイーダが、そのまま重力任せに、ふかふかの布団に背中を預けたからだ。
「はぁっ・・・・・・」
アイーダは息を吐きだす、でも、いつものとはちがう。
まだ、どきどきしている心臓を落ち着かせるためのものだ。
わずかに輪郭を帯びる天井の鍾乳石装飾。
真下から見上げると万華鏡のように広がる。
夜風が運ぶ花の香り。
アイーダの体の中で熱が対流して、泡沫が生まれては消えていく。
「みつ子。そのまま寝たら風邪ひくよぉ?」
舞台の余韻に浸り過ぎて、舞台衣装のままであることをアイーダは、すっかり忘れていた。
ポンチョを脱いだ瞬間、ひやりとした部屋の空気が襲ってきて、裸同然の恰好だと改めて感じる。
こんな変態趣味の恰好で堂々と踊りまくっていた自分が、今更になって恥ずかしくなってきていた。
アイーダは舞台衣装を脱ぎ、私服のワンピースに着替えた。
着慣れた服に体が包まれて、少し落ち着く。
ふぅ、とアイーダは小さく息を吐いた。
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