第四章 咲き乱れし花と・・・・・・ ☆

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 振り向くと、麝香の香りを纏う人物が寝台に座っていた。 「あ・・・・・・。あの、さっきは、ありがとうございました。お湯も」  驚いた拍子に、アイーダは礼の言葉を口にする。  ヘサームは、いつの間に入って来たのだろうか。  いつもは長い胴衣に隠れている引き締まった胸板と、割れた腹筋が露になっている。  男の固まり・・・・・・、とでも言えそうだ。  体が火照るのか、ヘサームはシャルワールしか履いていない。  男の裸なんて見慣れてないし、恥ずかしくて、アイーダは白く濁った円い水面に目を戻した。 「ぁっ」  背後から逞しい両腕が伸びてくる。  アイーダに逃げる暇などなく、あっさりと、きつく抱きしめられた。  ヘサームの腕の中という狭い檻に閉じ込められ、窒息しそうになる。  背中の布越しに固い筋肉を感じた。  行為後の独特の匂いと、麝香の香りが織り交ざり咽返りそうだ。  引き始めていた汗が、背筋を伝う。でも、走った後の生理現象じゃなくて。  収まりかけていた鼓動も、どきどきと煩くて、アイーダは両手でワンピースごとポンチョをぎゅう、と握りしめる。何か、この状況を紛らわせる話題はないかと必死で考えを巡らせた。  そんな追い込まれたアイーダの反応すら、ヘサームは愉しんでいるようだった。 「あ、の・・・・・・。今朝は、お食事とお薬をいただき、ありがとうございました。おかげ様で、無事今夜も踊ることができました」  憎たらしい相手に礼を言うなんて馬鹿げていると思うけれども、とりあえず今は思考をべつのことで切り替えたかったのだ。 「クッ。正直者を通り越して、ただの馬鹿だな」  カチンと来るが、アイーダは、また言い返すコトバを用意しておかなかった。  今朝の間接キスのことが思い出される。  スプーンで薬と料理を掬う王の仕草がアリアリと脳内が再生した。 「んっ・・・・・・」  背後から、褐色の長い指が手探りにポンチョを這い上がる。  アイーダの花びらのような可憐な唇を、ヘサームの親指が触れた。  ひやりと、冷たい金属の感触。  ヘサームの右手親指には、古めかしい指環が、はめられていた。  真鍮らしく所々変色したり、くすんだりしている。  王様らしからぬ装飾品にアイーダは意外に思った。 「今宵は昨夜よりも妖艶だったな」 「っ!」  やわらかな唇を指で蹂躙しながら、ヘサームが挑発するようにつぶやく。   恥ずかしさと、悔しさでアイーダは体の温度が急激に、上昇した。  怪しく鋭いヘサームの瞳の中で、燈火が揺れる。  「あっ・・・・・・」  褐色の手が裾から入り込み、アイーダの太ももを撫でまわす。  逃げようと、もがいても、力強い腕に囚われて逃げ出せない。 「ん ゃっ・・・・・・」  そうしてる間にも、ヘサームの掌が下穿きをも侵そうとしている。  触れさせないようにアイーダは必死に脚を閉じようとした。  太腿の間で布がもたくれる。  怖くて、ただひたすら目を瞑って、必死で耐えた。  ヘサームは後ろにいるため、何をされるか予測できず、余計に怖い。  そして、それすらも面白がる、ヘサームの嘲りが聞こえる。  自分と彼との間にある空気さえ、きゅうっと心臓を掴み、圧迫してくる。  アイーダは小動物みたいに、縮こまった。 「フン。まだまだ初心な小娘か」 「・・・・・・へっ、へいかのご命令には従いましたっ‼まだ何かご不満な点、でもっ・・・・・・」  声が上ずって震えてしまった。  無意識にアイーダの瞳から雫が落ちる。 (怖い。ヘサーム王は、そんなにわたしが気に入らないの・・・・・・っ?)   「―――ッ」 その時、ヘサームから微かな呻き声が上がった。
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